K-EnterTech Hub 分析
トールビット、4〜6月期のB2Bコンテンツは人間のリクエスト1000件あたりAIスクレイプ116件… ダブルベリファイ、AIスロップへの広告リクエストは1〜9月で32億件

グラフィック=K-EnterTech Hub
ひとこと要約
AIボットは人間が書いた専門コンテンツに集中し、広告はAIが量産した低品質ページに流れている。トールビットの集計では4〜6月期、B2B・専門コンテンツは人間のリクエスト1000件あたりAIスクレイプ116件で、全国ニュース(20件)の5.8倍だった。ダブルベリファイによるとAIスロップページへの広告リクエストは1〜9月で32億件を超えた。韓国では地上波3社とネイバーのAI学習訴訟の第8回弁論が5日に開かれる。
人間が手間をかけてつくった専門コンテンツはAIの回答材料として収集され、AIが安価に量産した低品質コンテンツは広告を集めている。AIのコンテンツ需要が膨らむ一方で、広告市場ではAIスロップサイトが急増するという逆説が起きているのだ。コンテンツをつくる側には利用対価を、広告を買う側には広告枠の品質をどう保証するかが、メディア産業の課題として浮上した。
AIボットが人間よりもはるかに頻繁に読みに来るのはB2B・専門分野のコンテンツだ。AIコンテンツ取引プラットフォームのトールビット(TollBit)によると、2026年4〜6月期にB2B・専門コンテンツが受けたAIスクレイプ(自動収集)は人間のリクエスト1000件あたり116件だった。子育て(92件)、健康・ウェルネス(87件)が続いた。全国ニュースは20件、地域ニュースは22件で、13分野の中で最も低かった。
同じ期間、広告市場ではAIが大量生産した低品質サイト、いわゆるAIスロップ(AI slop)が急速に増えた。広告検証会社ダブルベリファイ(DoubleVerify)のデータを引用した米アクシオス(Axios)の10月17日付報道によると、4〜6月期のAIスロップサイト数は前年同期の5倍超に増え、トラフィックは4倍になった。AIスロップページへの月間広告リクエストは1月の1億8400万件から9月には8億3400万件へと354%増加した。1〜9月の累計は32億件を超える。
アクシオスは二つのデータを、メディアトレンド資料の中で「人間の知性は希少だ(Human intelligence is scarce)」「AIスロップがGEOを乗っ取る(AI slop hijacks GEO)」という見出しで並べて紹介した。GEO(生成エンジン最適化、generative engine optimization)とは、チャットGPT(ChatGPT)などのAI回答に自社コンテンツが引用されるよう整える手法を指す。アクシオスは、ブランドとメディアがチャットボットの推薦に影響を与えようと競い合う中で、SEO(検索エンジン最適化)が抱えていたインセンティブの問題がAI回答エンジンの時代にさらに深刻になったと書いた。
韓国では同じ問題が法廷で争われている。KBS(韓国放送公社)・MBC(文化放送)・SBS(ソウル放送)の地上波3社がネイバー(Naver、네이버)を相手取って起こしたAI学習をめぐる著作権訴訟の第8回弁論が、5日にソウル中央地方法院(서울중앙지방법원)で開かれる。双方は弁論終結を前に、ニュースの学習がフェアユース(公正利用)に当たるかを争っている。
B2Bは116件、全国ニュースは20件… 「購買直前の質問」に答えるコンテンツにボット集中
アクシオスはトールビットの数値について、B2Bコンテンツは業務や購買の決定直前に発せられる「高意図(high-intent)」の質問に答えるものであり、ニッチなコンテンツはボットにとって長く使える(エバーグリーン)価値が高いと説明した。この指標は人間の需要に対する比率であるため、ニュース分野の低い数値には、人々が今も直接ニュースサイトを多く訪れているという事実も反映されている。

ボットと人間の比率は1年で急速に開いた。トールビットの2025年下半期報告書を米ディジデイ(Digiday)がまとめた記事によると、2025年1〜3月期に人間の訪問200件に1件だったAIボットの訪問は、10〜12月期には31件に1件となった。同期間のAIボットのスクレイプの30%は、サイトがrobots.txtで示した拒否指示に従わなかった。一方、AIアプリがメディアに送る流入は外部流入全体の約0.12%にとどまり、グーグル(Google)の約80%とは大きな差があった。
トールビットが公表した2026年上半期の集計は、9870億件超のサイト訪問を分析したものだ。同期間に検知したAIボットのスクレイプは220億件を超え、そのうち19億件以上がサイト運営者のrobots.txtの指示を回避または無視した。トールビットはこの報告書に「悪いボット(The Bad Bots)」という副題を付けた。
AIスロップサイト1年で5倍… 9月の広告リクエストは8億3400万件
AIスロップページ向けの広告リクエストは下半期に入って増加幅が拡大した。月間リクエストは4月の2億9600万件から5月に2億5800万件へいったん減った後、7月3億5900万件、8月5億2800万件、9月8億3400万件と増えた。8〜9月の2カ月だけで1〜9月累計(約32億5000万件)の42%を占める。

スロップサイトが増える理由は制作コストにある。ダブルベリファイの不正研究部門(DV Fraud Lab)は3月、一つの組織が運営する200超のAIスロップドメイン網を「オートベイト(AutoBait)」と名付けて公表した。各ドメインは独立したライフスタイルブログを装っていたが、同じAI生成記事と画像を共有しており、運営者はコンテンツ生成用のプロンプトをサイトのJavaScriptコード内にそのまま残していた。研究チームは記事1本の生成コストが2.25ドル(約3000ウォン)未満だと豪メディアウィーク(Mediaweek)に明らかにした。ダブルベリファイは2026年初めの数週間だけで、複数言語のAIスロップサイトを数千件見つけたという。
ダブルベリファイは上半期だけでAIスロップコンテンツの表示を5億回以上検知したと、エクスチェンジワイヤー(ExchangeWire)が9月14日に報じた。欧州・中東・アフリカ(EMEA)では旅行がAIスロップの最も多い分野で、スポーツやテックでも量が多かった。同社はスロップ回避ツール「AIスロップストッパー(AI SlopStopper)」を、オープンウェブに続いてユーチューブ(YouTube)の動画面にも広げた。
訴訟は本文からメタデータへ… グレースノート、オープンAIを提訴
アクシオスは、コンテンツ企業とAI企業の訴訟の範囲がメタデータにまで広がったと整理した。ニールセン(Nielsen)傘下のグレースノート(Gracenote)は3月、オープンAI(OpenAI)を著作権侵害で提訴した。グレースノートは、オープンAIが自社のメタデータを無断で使っただけでなく、メタデータ同士をつなぐ関係構造(relational framework)まで複製したと主張している。アクシオスは3月10日、データセットの背後にある独自構造を問題にした大手メディアの著作権訴訟はこれが初めてだと伝えた。
AI回答サービスを狙ったメディアの訴訟も続いている。ペンスキー・メディア(Penske Media)は2025年9月にグーグルのAIオーバービュー(AI Overviews)を、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)とシカゴ・トリビューン(Chicago Tribune)は2025年12月にパープレキシティ(Perplexity)を相手取って提訴した。日本では読売新聞が2025年8月、パープレキシティが記事11万9467件を無断で取得したとして約21億7000万円の損害賠償を求めて提訴し、朝日新聞と日本経済新聞も同月に訴訟を起こした。
遮断も広がっている。アクシオスのメディア担当サラ・フィッシャー(Sara Fischer)記者は10月19日、米主要メディア102ドメインを分析した結果を公開した。42%がAI学習用クローラーを全面的に遮断した一方、AI検索用クローラーを遮断したのは25%だった。アンソロピック(Anthropic)のクロードボット(ClaudeBot)を全面遮断したのは46%、オープンAIのGPTボット(GPTBot)は38%だった。学習は拒みつつ、AI回答で引用される経路は開けておく選択が多いことを示す。
韓国地上波3社対ネイバー、5日に第8回弁論… 一審判決は年末〜年初の見通し
地上波3社は2025年1月13日、ネイバーが大規模AI「ハイパークローバ(HyperCLOVA)」「ハイパークローバX(HyperCLOVA X)」の学習に3社の記事を無断で使ったとして提訴した。各社の請求額は2億ウォン(約14万9000ドル)で、AI学習の差し止めも求めている。原告側は請求額を今後引き上げる方針だ。第3回弁論の前には、侵害を主張する著作物約9万7000件のリストを裁判所に提出した。
8月18日の第6回弁論で裁判所は、ネイバーが2020年にニュース提携約款を改定した際、生成AIモデルへの利用可能性を放送局に説明していなかったとみられるとして、その前提で主張するよう双方に求めた。ネイバーは契約上の利用権限とフェアユースを根拠に反論している。9月8日の第7回弁論は主張と証拠を整理する10分ほどの期日で終わり、双方は次回か次々回での弁論終結を提案した。韓国記者協会報(한국기자협회보)は一審判決が年末か来年初めに出る可能性があるとみている。地上波3社は2月、オープンAIに対しても学習と出力の両面で著作権侵害訴訟を起こした。
制度はまだこの争いに追いついていない。今年1月に施行された韓国のAI基本法(AI 기본법)は、AI事業者にAIベースのサービスであることとAI生成物であることの告知・表示義務を課すのみで、学習データの利用や著作権侵害の禁止に関する条項はない。AI事業者に学習データ情報の公開を義務付ける改正案は2025年6月に発議されたが、国会での審議が止まっている。
トールビットの数値は、韓国の放送・メディア業界が交渉対象を広く捉える根拠になる。韓国の訴訟はニュース記事の学習を中心に進んでいるが、ボットの需要が大きいのはB2B、子育て、健康のように質問に直接答える専門・生活情報だった。放送局が持つ医療・経済の専門番組、教養・ドキュメンタリーのアーカイブ、台本・字幕データがこの範囲に入る。広告面では、韓国の広告主も海外ブランドと同じオープンマーケットのプログラマティック枠を買っている。ダブルベリファイはディジデイの取材に、メディアと直接取引するPMP(プライベートマーケットプレイス)や保証型取引がスロップや偽装枠のリスクを下げると説明した。放送局やメディアのデジタル広告営業が、人間のトラフィックの検証データを販売条件として打ち出せる理由がここにある。
AIが代替できないもの… 一次取材・視点・信頼
AIが容易に代替するコンテンツとそうでないコンテンツの違いは、メディアの現場データに表れている。米テックメディアのデジタル・トレンズ(Digital Trends)は、トールビットのモニタリングで1週間に410万件のボットのスクレイプを受けたが、AIチャットボットから送られてきた訪問者は4200人に満たなかった。最も打撃を受けたのは「Windowsでスクリーンショットを撮る方法」のような常時型の解説記事と、製品仕様中心のレビューだった。AIが手順や仕様・評価をその場でまとめてしまうからだ。2006年の創刊に関わったダン・ゴール(Dan Gaul)は、「データ中心や仕様中心の情報」で損失が最も大きいとメディア・コパイロット(The Media Copilot)に語った。企画・論評・創作記事は代替されにくく、デジタル・トレンズはトラフィック最適化から読者コミュニティづくりへと方針を転換している。
AIが新たに生み出せないのは、まだどこにも記録されていない情報だ。現場取材やインタビュー、独自に蓄積したデータ、業界の人脈から得た事実は、AIの回答が引用することはできても、自ら生産することはできない。トールビットの集計でボットが最も集まったのもB2Bとニッチ分野だった。グレースノートが訴訟で守ろうとしたのも記事本文ではなく、長年かけて築いたメタデータの構造だった。
信頼も代替できない。ダブルベリファイの調査で、英国の消費者の48%は低品質なAI生成コンテンツの横に広告が出たブランドへの印象が悪くなると答え、30%は非常に悪くなると答えたと、アドバンスト・テレビジョン(Advanced Television)が9月14日に報じた。誰がつくったかを確認できる広告枠が、広告主にとって価値を持つ理由だ。
韓国の放送・メディアに置き換えれば、地域の取材網、分野別の専門記者やPD、数十年分の放送アーカイブ、出演者やファンとの関係がこれに当たる。アクシオスがスライドの見出しに掲げたとおり人間の知性は希少になりつつあり、AI時代のコンテンツの価格は生産量よりも一次情報と信頼によって決まる方向へ移っている。
韓国の一審判決は早ければ年末… ボット課金とスロップ遮断ツールが拡大
地上波3社とネイバーの一審判決は、韓国でAI学習用ニュースデータの利用範囲と対価を扱う初の司法判断となる。裁判所が約款解釈で結論を出すのか、フェアユースまで判断するのかによって、新聞・ネットメディアの今後の交渉のあり方も変わる。出力物まで争うオープンAIへの訴訟は、さらに論点が広い。
海外では遮断から課金へと重心が移りつつある。トールビットはAIボットを有料ゲートに誘導してページ単位で料金を取る仕組みを運営しており、上半期だけで26億件超のボットリクエストをこのゲートに振り向けた。広告検証会社はスロップ回避ツールをソーシャル・動画プラットフォームに広げている。ボットが人間の専門コンテンツをより多く持ち去り、広告がAI生成ページにより多く流れる流れが同時に強まる中、コンテンツ事業者の対価はアクセス課金、ライセンス、検証済み広告枠の三つの経路で同時に交渉される可能性が高い。