バリー・ディラー氏、スタジオ合併の論理に反論 次の勝者はYouTube

バリー・ディラー氏が「ネットフリックスは勝った」と述べ、規模拡大による対抗というハリウッドの合併論理に反論し、次の勝者にYouTubeを挙げた。グーグル経由の流入の6割を失っても配信経路を広げて11四半期連続で成長したピープルの事例と、ライセンスではなく自ら作る「インバージョン」戦略も紹介した。韓国の放送局にも同じ問いが向けられている。

バリー・ディラー氏、スタジオ合併の論理に反論 次の勝者はYouTube

パラマウントとFOXを率いた84歳の経営者「ネットフリックスは勝った」 1100億ドルのスカイダンス合併完了から1カ月、YouTubeの米テレビ視聴シェアは15.8%でネットフリックス(7.7%)の2倍

10月下旬、ビジネス・インサイダーの「ザ・ロング・プレー」でピーター・カフカ氏の質問に答えるピープルのバリー・ディラー会長。 写真=ビジネス・インサイダー「ザ・
10月下旬、ビジネス・インサイダーの「ザ・ロング・プレー」でピーター・カフカ氏の質問に答えるピープルのバリー・ディラー会長。 写真=ビジネス・インサイダー「ザ・ロング・プレー」映像より
「ネットフリックスは勝った。だが、誰もがネットフリックスをまねる必要はない」

ピープル(People Inc.)のバリー・ディラー(Barry Diller)会長が、ハリウッドのスタジオ各社が進める規模拡大戦略に反論した。「ネットフリックス(Netflix)は勝った」と同氏は語った。次の勝者にはYouTubeを挙げた。

ディラー氏は10月下旬、ビジネス・インサイダー(Business Insider)の対談イベント「ザ・ロング・プレー(The Long Play)」でピーター・カフカ(Peter Kafka)チーフコレスポンデントと対談し、同誌は11月5日にその内容を掲載した。ディラー氏が合併に否定的な理由は、有料ストリーミング市場の勝負はすでについたという判断にある。同氏は「規模はほとんど何の答えにもならず、決定要因でもない」と述べ、「統合をあまり信じていない」と語った。

発言はハリウッド最大の合併が完了した直後に出た。パラマウント・スカイダンス(Paramount Skydance)は10月6日、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)の買収を完了した。負債を含む取引規模は約1100億ドルで、合併会社の社名はスカイダンス(Skydance)に変わった。ネットフリックスも2025年12月にワーナーのスタジオ・ストリーミング事業の買収契約を結んだが、会社全体を1株31ドルの現金で買うと提案したパラマウントに敗れた。

ディラー氏は1974〜84年にパラマウント・ピクチャーズ(Paramount Pictures)を率い、その後8年余り20世紀フォックス(20th Century Fox)を経営して、ルパート・マードック(Rupert Murdoch)氏とともにFOX放送網を立ち上げた。ハリウッドを離れた後はIACを通じてエクスペディア(Expedia)、マッチ・グループ(Match Group)、チケットマスター(Ticketmaster)を育てた。同氏は「20世紀フォックスは消えた」と述べ、「時間がたてばパラマウントも消えるだろう」と語った。

ディラー氏は1974〜84年にパラマウント・ピクチャーズ、その後8年余り20世紀フォックスを率い、IAC(現ピープル)を築いた。 写真=ビジネス・インサイダー「
ディラー氏は1974〜84年にパラマウント・ピクチャーズ、その後8年余り20世紀フォックスを率い、IAC(現ピープル)を築いた。 写真=ビジネス・インサイダー「ザ・ロング・プレー」映像より

ディズニーとFOX、ディスカバリーとワーナーメディア、スカイダンスとワーナー…名目はいずれも「対ネットフリックス」

ネットフリックス以外のメディア企業の経営者は、何年も同じ論理でM&Aを説明してきた。ディズニー(Disney)は2019年に21世紀フォックスの資産の大半を713億ドルで買収し、ディスカバリー(Discovery)は2022年にワーナーメディア(WarnerMedia)と統合した。エリソン(Ellison)父子は2025年にスカイダンスを通じてパラマウントを買収し、続いてワーナー・ブラザース・ディスカバリーも傘下に収めた。

カフカ氏が「皆、ネットフリックスと戦うには大きくならなければならないと言う」と水を向けると、ディラー氏は「ネットフリックスは勝った」と答えた。「彼らがよほどおかしなことをしない限り、ネットフリックスに勝つことはできない」「そのゲームは終わった」と述べた。ただし競合が収益性のある事業を築けないという意味ではないとし、「素晴らしく収益性のある事業は十分に可能で、正直に言えば多いほど良い」と語った。

スカイダンスの課題はコストだ。合併会社の年間売上高は700億ドル近くに上り、60億ドル超のコスト削減を進める方針だと、ハリウッド・リポーター・インディア(The Hollywood Reporter India)が伝えた。AFPによると、スカイダンスは買収資金として約520億ドルの新規借り入れを計画しており、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーがすでに抱える320億ドル超の負債に上乗せされる。

FOXは6月15日、コネクテッドTVプラットフォームのRoku(ロク)を企業価値220億ドルで買収すると発表した。Rokuは世界1億世帯以上に届き、取引は2027年上半期に完了する見通しだ。アクシオス(Axios)は10月20日公表の「2026年メディアトレンド年次報告書」で、この取引をコンテンツから流通・ハードウェアへ事業を広げる戦略転換と位置づけた。

ネットフリックス、7〜9月期の営業利益率34.6% 今年の売上高見通し511億ドル

ネットフリックスの7〜9月期の売上高は前年同期比12%増の128億7000万ドルだった。営業利益は37%増の45億ドルで、営業利益率は28.2%から34.6%に上昇した。同社は10月20日の株主向け書簡で2026年の売上高見通しを511億ドルとし、サブスクリプション収入の伸びは想定を上回ったと説明した。

広告は伸びが遅い。ネットフリックスは今年の広告収入見通しを約30億ドルから27億ドルに引き下げ、広告付きプランの新規15カ国展開を2027年に先送りした。10〜12月期の営業利益率見通しには、最近発表した人員削減の費用として約1.2ポイントの押し下げ要因が織り込まれている。

YouTube、米テレビ視聴シェア15.8%で過去最高 ネットフリックスの2倍

ディラー氏が次の勝者に挙げたのはスタジオではなくプラットフォームだ。「ボタン一つで、どんなものでもほぼ無料で世界に公開できる時代だ」と述べ、「次の大きな勝者を挙げるなら、間違いなくYouTubeだ」と語った。数え切れない人々が自ら作って公開するという点で、TikTokも同じ範疇に入れた。同氏は「既存のメジャー企業は縮小し、プラットフォームは拡大している」と述べた。

ニールセン(Nielsen)が10月22日に発表した8月の「ザ・ゲージ(The Gauge)」で、YouTubeは米国のテレビ画面視聴時間の15.8%を占め、プラットフォームとして過去最高を更新した。ワールドカップの終了と新学期が重なり、テレビ全体の利用が7月比4.4%減った月に、YouTubeの視聴時間は6%増えた。事業者別の集計(Media Distributor Gauge)では、ディズニーが9.3%、ネットフリックスが7.7%、パラマウントが6.8%だった。テレビ視聴に占めるストリーミングの比率は49.6%に達した。

米国のテレビ視聴時間シェア(2026年8月、事業者別)。
米国のテレビ視聴時間シェア(2026年8月、事業者別)。ワーナー・ブラザース・ディスカバリーとアマゾンの数値はニールセンの発表文で公表されていない。出所=ニールセン

ショート動画プラットフォームも伝統メディアを脅かしている。ルミネート(Luminate)が10月に出した特別報告書「ソーシャルメディアとエンターテインメントの発見」では、米国の18〜24歳の57%がTikTok、Instagramリール、YouTubeショートなどのショート動画で見る映画やテレビ番組を見つけると答えた。ストリーミングサービス内で探すとの回答(55%)を上回り、65歳以上(16%)の3倍を超える。18〜24歳の週間メディア利用時間に占めるショート動画の比率は26%で、55歳以上(12%)の2倍を超えた。

米国の視聴者が見る映画・番組を見つける経路(年齢別)。
米国の視聴者が見る映画・番組を見つける経路(年齢別)。ストリーミング内での検索はおすすめ・ジャンル・人気一覧の閲覧をまとめた値。出所=ルミネート「エンターテインメント365」

これを受け、ストリーミング各社もショート動画に注力している。ディズニー+(Disney+)は3月に縦型動画フィード「Verts」を開設した。ネットフリックスは4月に「Clips」、プライム・ビデオは5月に「Clips」、HBO Maxは7月に「HBO Max Shorts」、ピーコック(Peacock)は8月に「Vertical Feed」を投入した。ルミネートは、各サービスが掲げた目的はいずれもアプリ内でのコンテンツ発見だと整理した。ディズニーは8月にTikTokと提携し、クリエイターがマーベル、ピクサー、スター・ウォーズのキャラクターを動画に使えるようにした。

サービスフィード開始主な内容
ディズニー+Verts2026年3月作品の名場面
ネットフリックスClips2026年4月シリーズ・映画・特番のクリップ
パラマウント+名称なし2026年4月スポーツハイライト、CBSニュース、予告編
プライム・ビデオClips2026年5月NBAハイライト、作品クリップ
HBO MaxHBO Max Shorts2026年7月予告編・クリップ・特典映像
ピーコックVertical Feed2026年8月ライブラリのクリップ、マイクロドラマ
TubiScenes2024年11月映画・番組のクリップ

米主要ストリーミングサービスの縦型ショート動画フィード。出所=ルミネート(2026年9月時点)

アクシオスはニールセンのデータを引き、米国のテレビ視聴に占めるストリーミングの比率が2021年以降21ポイント上がって49%になり、同じ期間にケーブルの比率は38%から18.7%に下がったとまとめた。

米国のテレビ視聴時間に占めるストリーミングとケーブルのシェア。
米国のテレビ視聴時間に占めるストリーミングとケーブルのシェア。2021年のストリーミングは2026年の49%から上昇幅21ポイントを差し引いた値。出所=ニールセン(アクシオス「2026年メディアトレンド年次報告書」より)

6大メジャーから4グループへ ディラー氏「ここ数年の作品の質は良くなかった」

ディラー氏は、メジャースタジオが6社あった時代を「良い作品を作るうえで非常に健全な環境だった」と振り返った。20世紀フォックスはディズニーに、ワーナー・ブラザースはスカイダンスに吸収され、ハリウッドのメジャーはディズニー、スカイダンス、ユニバーサル(Universal)、ソニー・ピクチャーズ(Sony Pictures)の4グループになった。

制作本数について同氏は「市場が求めるだけ作るだろう」と述べた。品質についての見方は異なる。コロナ禍前の10〜15年間、テレビドラマの質は「並外れていた」と評価する一方、「ここ数年に出てきた作品は総じて良くなかった」と語った。「バブルがしぼんだ」とも表現し、「時代を象徴するような番組を最後に見たのはいつか」と問いかけ、統合の流れは健全ではないと述べた。

アクシオスによれば、米国の放送ネットワークが2024年に制作したテレビのエピソードは2022年より5000本近く少なく、ハリウッドの雇用は18万5200人と2020年以降で最も少なかった。スタジオは脚本ドラマへの支出を減らし、スポーツ中継へ投資を移している。

MGM株26%→51%を目指し撤回 「始まりも終わりも直感」

対談の最初の話題はMGMリゾーツ・インターナショナル(MGM Resorts International)だった。ピープル(旧IAC)は6月、残りの株式を1株48.30ドルで取得して非上場化する案を示した。負債を含め約180億ドル規模で、9月23日に撤回した。ディラー氏は、26%を51%に引き上げる好機と考えたが、プライベート・エクイティ型の取引は経験がなかったと語った。当初の構造を投資家が望まず、負債を増やして第三者に資金を求めるやり方に違和感が募って手を引いたという。

その後、MGMが逆にピープルの買収を提案した。ディラー氏は、MGMは雑誌出版社になりたかったのではなく、ピープルが持つ自社株の4分の1を買い戻したかったのだと説明し、約1週間で出てきた提案を断ったと述べた。ピープルは26%を保有し続け、29%まで買い増すことができる。

ディラー氏がMGMを手放さない理由はAIへのリスク分散だ。エクスペディアのような事業は仲介機能が失われるディスインターミディエーション(disintermediation)のリスクがあり、3〜7年先を見通しにくいとし、「どこかに行きたい人とその場所の間には何も割り込めない」と語った。同氏はラスベガスのリゾートを「永遠の資産」と呼び、ラスベガスを行き交うお金の約4割がMGMの11施設を通ると述べた。ゲーミングは全体の3分の1程度だという。

意思決定について、ディラー氏は「たいていのことは直感で始まり直感で終わる」と語った。パワーポイント資料や銀行の助言を経ても、最後に決めるのは直感だという。最後の瞬間でも状況次第で考えを変える用意があるとし、「考えを変えられる能力は良いことだ」と述べた。

実際、AI時代にはAIが代替できない市場への需要が高まっている。アクシオスによると、ライブ体験市場の売上高は2021年以降ほぼ倍増して1490億ドルに達し、PwCは2030年に1740億ドルを見込む。アクシオスはライブ体験をAIに揺るがない成長領域に挙げた。ディズニーの売上高の38%はテーマパークなどのエクスペリエンス部門が占める。

ディラー氏はMGM買収の撤回について説明した。
ディラー氏はMGM買収の撤回について、何かがしっくりこないという小さな不安が大きくなったと説明した。 写真=ビジネス・インサイダー「ザ・ロング・プレー」映像より

グーグル流入6割減でも11四半期連続成長 ライセンスの代わりに「インバージョン」

ピープルは2021年、雑誌大手メレディス(Meredith)を27億ドルで買収した。雑誌産業が衰退していた時期だった。ディラー氏によれば、年間3億2500万部を刷っていた雑誌群には「デジタルの心臓」がなく、デジタルへの移行に2年半から3年かかった。その後、検索の変化とAIでグーグル経由の流入の約6割を失ったが、3年前からTikTok、Instagram、YouTubeへ配信経路を広げ、11四半期連続で成長しているという。

ディラー氏はブランドの重要性を強調した。強いブランドを持たないレガシーなデジタル事業は消えるとし、ピープルの強いブランドを10〜15と数えた。従業員数は3年前と同じだが、約3分の1が新しい仕事を担う人材に入れ替わったという。市場はピープルの価値をMGM株の価値だけで測り出版事業をゼロとみているとし、決算発表後に自社株買いに動く可能性があると述べた。

新たな収益源は「インバージョン(Inversion)」だ。

出版社は雑誌ブランドを第三者にライセンスし、1〜2%を受け取ってきたが、ディラー氏はなぜ1〜2%の側にとどまるのかと問い、自ら作り流通させる道を選んだ。購読者200万人の『サザン・リビング(Southern Living)』は、編集者の発案で南部風のスイートティーの缶飲料を自ら製造・流通させる。良いアイデアなら雑誌の誌面と数十億回のデジタル露出でどの会社より安く宣伝できるという。

こうした自社プロジェクトが21件進んでいる。旅行誌『トラベル+レジャー(Travel + Leisure)』がなぜ『ホワイト・ロータス』のようなドラマを作らなかったのか、『フード&ワイン(Food & Wine)』がなぜ『カサミゴス(Casamigos)』のような酒類ブランドを作らなかったのかを編集者に問うたと紹介した。

ストリーミングでは失敗を認めた。Vimeoがストリーミング競争の初期に自社コンテンツを作る消費者向け事業に乗り出し、数カ月で撤退したことについて、ディラー氏は大きな間違いで続けるべきだったとし、「私は間違っていた」と語った。5〜7年前、ネットフリックスがストリーミング戦争に勝ったと最初に公言したのは自分だとも述べた。

AIエージェントについては二つの世界が共存するとみる。一つまたは少数の大規模言語モデル(LLM)プラットフォームがすべてを処理する「水平の世界」と、特定分野の専門性を持つブランドがより信頼される「垂直の世界」だ。エクスペディアの年間取扱高を約1450億ドルと紹介したディラー氏は、LLMは何でもうまくこなすが問題が起きたときにできることがないとし、サービス中心の強いブランドと自ら保有する技術が生き残りの条件だと述べた。

韓国のネットフリックス月間利用者1516万人 TVINGとWavveの合併はKTの同意待ち

ネットフリックスの韓国進出から10年。韓国のメディア地図も大きく塗り替わった。韓国のアプリ分析会社ワイズアプリ・リテール(WiseApp·Retail、와이즈앱·리테일)の集計で、ネットフリックスの韓国内の月間アクティブユーザー(MAU)は2025年12月に1516万人と過去最多を記録した。前年同月比の伸び率(15%)も韓国の主要ストリーミングサービスで最も高かった。

これに対し、市場は結集で応じている。独占を懸念していた政府も、ネットフリックスの勢いを前に合従連衡を容認する構えだ。TVING(티빙)とWavve(웨이브)の統合は、韓国公正取引委員会(공정거래위원회)が2025年6月10日に条件付きで承認した。両サービスは2026年12月31日まで現行料金を維持しなければならない。法人合併は、TVING株13.54%を持つ第2位株主KTスタジオジーニー(KT스튜디오지니)の同意手続きで止まっている。KTの朴潤泳(パク・ユンヨン、박윤영)代表は7月23日、合併について正式な参加要請はまだ受けていないと述べた。ただ、遅きに失した感もある。

TVINGは合併とは別に黒字を出した。4〜6月期の売上高は1407億ウォン(約1億400万ドル)、営業利益は60億ウォン(約440万ドル)で黒字に転換した。同社は韓国プロ野球(KBO)の中継とオリジナル作品『ユミの細胞たち3(유미의 세포들3)』などのヒットで加入者が純増したと説明した。ディラー氏が言う「ネットフリックスに勝てなくても成り立つ収益性のある事業」にあたる実績とも言える。

コンテンツの形式を広げれば、YouTubeは無視できない。ワイズアプリ・リテールが2026年1〜5月の動画・音楽サブスクアプリの利用時間を分析したところ、YouTubeの月平均利用時間は1136億分で、ネットフリックス(56億1000万分)の約20倍だったと韓国経済新聞(한국경제)が報じた。韓国の視聴時間の大半は、定額制ストリーミングではなくYouTubeで費やされている。

韓国の主要動画・音楽サブスクアプリの月平均利用時間
韓国の主要動画・音楽サブスクアプリの月平均利用時間(2026年1〜5月、スマートフォンのパネル調査)。出所=ワイズアプリ・リテール

ライセンス1〜2%にとどまるのか ディラー発言が韓国の放送局に示すもの

ディラー氏の言う適正規模は、製品を出して流通させられるだけの規模で、それ以上は必要ないというものだ。WavveはSKスクエア(SK스퀘어)と地上波3社(KBS・MBC・SBS)が株主のサービスで、TVINGとの合併が実現すればCJ ENMと地上波3社のコンテンツが一つのサービスに集まる。ディラー氏の基準に照らせば、合併会社の成否はネットフリックスとの加入者差よりも、TVINGが4〜6月期に出したような利益で判断される。

ピープルはグーグル経由の流入の6割を失っても、TikTok、Instagram、YouTubeへ配信を移して成長を続けた。韓国の放送局のデジタル収入は、海外ストリーミングサービスへの番組販売とYouTubeでのクリップ配信に大きく依存している。韓国の動画視聴時間がYouTubeに集中するなか、一つのプラットフォームの方針変更で収入が揺らがないよう配信経路を複数持つことが、ピープルの選んだ対応だ。

ショート動画での発見は放送局のクリップ戦略に直結する。ルミネートの調査では米国の18〜24歳の57%がショート動画で見る作品を見つけ、米国のストリーミングサービスは今年相次いで縦型クリップのフィードをアプリに組み込んだ。放送局がYouTubeやTikTokに出すクリップは、再生回数よりも、本編の視聴や自社サービスへの加入にどれだけつながるかを基準に設計する必要がある。

ディラー氏のインバージョンは知的財産(IP)の権利構造の問題につながる。ネットフリックスのオリジナルとして供給される韓国ドラマは、制作費に一定の上乗せを受け取る代わりにIPを手放す契約が多いと業界で指摘されてきた。なぜ1〜2%にとどまるのかという問いは、放送局が番組ブランドを商品、フォーマット、公演、旅行へと自ら広げる方向を指している。放送局には編成枠とYouTubeチャンネルという、ピープルの誌面にあたる自前の宣伝手段がある。

ディラー氏がラスベガスのリゾートを永遠の資産と呼ぶ根拠は、行きたい場所と人の間に仲介者は入れないという点にある。Kコンテンツのロケ地観光、コンサート、ファンイベントのように画面の外で生まれる場所の体験は、AIが代替しにくい領域だ。放送局のIPを場所と体験に移す事業は、AI時代のリスク分散の手段になり得る。

AI検索が広がるほど、ディラー氏の言う垂直の世界のブランドへの信頼が重みを増す。ニュース、時事、ドキュメンタリーなど放送局が専門性を積み上げてきたジャンルは、汎用AIの回答と区別されるブランドとして残り得る。ディラー氏はVimeoのストリーミング撤退を誤りと認め、考えを素早く変えることを長所に挙げた。TVINGとWavveの合併協議は足かけ4年、結論が出ていない。

スカイダンスのコスト削減、ネットフリックスの広告拡大、韓国の料金据え置き終了…2027年の変数

スカイダンスは、パラマウント・ピクチャーズとワーナー・ブラザース・ピクチャーズ、HBO Maxとパラマウント+(Paramount+)、CBSとCNNを一つの会社の中に抱えることになった。60億ドル超とされるコスト削減がどの制作ラインやチャンネルで行われるかが、ディラー氏の言う「質の高い制作のエンジン」の行方と重なる。

ネットフリックスは2027年3月から広告付きプランを新たな国に広げる。ニールセンは2026年9月の測定分からザ・ゲージに一度限りの手法調整を適用し、9月と10月の数値をまとめて公表する予定で、YouTubeの最高値更新が新基準でも続くかを確認できる。韓国ではTVINGとWavveの料金据え置き条件が2026年末に切れる。合併の行方と統合料金プランの設計が、来年の韓国ストリーミング市場の最初の変数になる。

84歳のディラー氏は引退の予定はないと語った。同氏はプラットフォームの拡大を認めつつ、「こうした質の高い制作のエンジンには繁栄してほしい」と述べた。

ウィリアム・モリスの郵便室からパラマウント、FOX、IACへ…84歳

ディラー氏は1942年にサンフランシスコで生まれた。芸能エージェンシー、ウィリアム・モリス(William Morris)の郵便室で働き始め、ABCに移って27歳でテレビ映画枠「今週の映画(Movie of the Week)」を立ち上げた。32歳でパラマウント・ピクチャーズの最高経営責任者(CEO)となり、1984年までに『サタデー・ナイト・フィーバー』『グリース』『レイダース/失われたアーク』を世に送った。1984年に20世紀フォックスに移り、44歳でFOX放送網を立ち上げて『ザ・シンプソンズ』『COPS』を編成した。

ネット事業の出発点は1995年に買収した地方局グループ、シルバー・キング・コミュニケーションズ(Silver King Communications)だ。同社はHSN、USAネットワークス(USA Networks)を経て2003年にIACとなり、ディラー氏はここでエクスペディア、チケットマスター、Vimeo、マッチ・グループを育てては分社化した。IACは2026年4月、出版事業とMGMリゾーツ株に集中する意味を込めて社名をピープルに改めた。ディラー氏はエクスペディア・グループの会長も務める。

ニューヨーク・マンハッタン西側の公園「リトル・アイランド(Little Island)」や「ハイライン(High Line)」など公共プロジェクトにも資金を出し、2025年5月には回顧録『Who Knew』を出版した。今回の対談では「自分の中には止まらないモーターがある」と述べ、関わって役に立てる限り働き続けると語った。レガシーについて問われると、後ろを振り返る言葉なので退屈だと答えた。技術については、自分はエンターテインメント出身で、社内の専門家から学んでいると述べた。

CES 2027エンターテインメントテック・サミット、1月7日午後5時にUNLVで ドリームスケープ・ラーンと共催

K-EnterTech Hub(K엔터테크허브)はCES 2027会期中の2027年1月7日午後5時、ネバダ大学ラスベガス校(UNLV)でUNLVのドリームスケープ・ラーン(Dreamscape Learn)センターとともに「エンターテインメントテック・サミット(Entertainment Tech Summit)」を開く。ディラー氏が指摘したスタジオ統合後の流通、ショート動画による作品発見、場所に根ざした体験がテーマとなる。ドリームスケープ・ラーンは仮想現実(VR)を使った没入型学習プログラムで、韓国からの参加者は施設を見学する。

K-EnterTech Hubはsmartcmsとともに、CESの展示をコンテンツ・エンターテインメントの視点で巡る「CES 2027エンターテインメントテック・インサイト・ツアー」も運営する。ツアーとサミットの参加者にはCESのエンタメテック関連セッションの分析資料を提供する。