ディズニーのAI投資、生成プラットフォームからパーク・撮影現場へ

ディズニーが投資したAI企業5社が3日のデモデーで、パークの駐車場・3Dメガネ整理ロボットとハイブリッド撮影工程を公開した。オープンAIとの10億ドル契約が3月のSora終了で破談した後の成果だ。ネットフリックスやライオンズゲートも制作工程のAI企業を買収・出資し、ロボット・スタートアップ投資は上半期で188億ドルと前年の年間額を超えた。 米視聴者はAI俳優・脚本に拒否感を、視覚効果には受容的な反応を示した。

ディズニーのAI投資、生成プラットフォームからパーク・撮影現場へ

投資先5社のうち3社は企業価値数十億ドル… オープンAIとの10億ドル契約破談から7カ月、駐車場ロボット・3Dメガネ整理ロボット・ハイブリッド撮影工程を公開、ロボットAI投資は上半期だけで188億ドル

2026年ディズニー・アクセラレーター・デモデーの参加企業とディズニー関係者。3日(現地時間)、米バーバンクのウォルト・ディズニー・スタジオ敷地内で。写真=ディズニー

ディズニーが選んだAI企業は何を作っているのか。ロボットが見知らぬ空間を自ら動けるようにするフィールドAI、目の前の物をつかんで片付けるようロボットに教えるフィジカル・インテリジェンス、俳優の演技を新たな物語の空間に移すプロミスが今年の投資先に入った。曲の雰囲気を映像コンセプトに落とし込むオープンアート、商品を出す前に消費者の反応をシミュレーションするシミリも加わった。5社を追えば、ディズニーがAIに求める次の競争力が見えてくる。

ディズニー(Disney)が投資したAI企業5社が3日(現地時間)、米カリフォルニア州バーバンク(Burbank)のウォルト・ディズニー・スタジオ敷地内で開かれた「2026年ディズニー・アクセラレーター・デモデー」で15週間の協業成果を公開した。ロボットAI企業のフィールドAI(FieldAI)とフィジカル・インテリジェンス(Physical Intelligence)はパークの駐車場管理と舞台裏の3Dメガネ整理にロボットを導入した。生成AI企業のプロミス(Promise)とオープンアート(OpenArt)はハイブリッド映画撮影と歌詞動画の案出しを、シミリ(Simile)は来場者の旅行計画シミュレーションを検証した。

ディズニーが2025年12月に発表したオープンAI(OpenAI)への10億ドル出資とキャラクター・ライセンス契約は、オープンAIが今年3月24日に動画生成サービス「Sora」の終了を発表したことで破談になった。資金は拠出されていない。ディズニーは7月31日にこの5社をアクセラレーター第12期として発表し、投資資金を入れた。投資額は公表していない。

他のスタジオも同じ年、制作工程に組み込むAI企業に投資先を移した。ネットフリックス(Netflix)は3月、俳優ベン・アフレック(Ben Affleck)氏が設立したポストプロダクションAI企業インターポジティブ(InterPositive)を5億8700万ドルで現金買収した。ライオンズゲート(Lionsgate)は6月、2024年から提携してきた動画生成企業ランウェイ(Runway)に出資した。

ディズニーの参加企業のうちロボットAIの2社は企業価値がそれぞれ100億ドル前後だ。クランチベースの集計では、ロボット・スタートアップへのベンチャー投資は2025年に138億ドル、今年は上半期だけで188億ドルに達した。ディズニーは生成AIプラットフォームとのライセンス契約が破談になった年に、投資対象をパーク運営ロボットと社内制作工程の企業へ広げた。

ダマロCEO「技術そのものが目的ではない」… 今年の参加企業のうち3社が企業価値数十億ドル規模

2026年ディズニー・アクセラレーター・デモデーで開幕あいさつをするジョシュ・ダマロ・ディズニーCEO(3日、現地時間)。写真=ディズニーのデモデー映像より

ジョシュ・ダマロ(Josh D'Amaro)ディズニーCEOはデモデーの開幕あいさつで「新技術の探索に非常に積極的に取り組んでいる」と述べ、「技術そのものが目的ではなく、クリエイターの手に技術を渡し、没入感のある物語を作ることが目的だ」と語った。今年の参加企業はロボット、ストーリーテリング・ツール、データサイエンスの3分野の5社だと紹介した。

ディズニーのジョシュ・ダマロCEOがデモデーの開幕あいさつで今年の参加5社を紹介している。画面にはフィールドAI、オープンアート、フィジカル・インテリジェンス、プロミス、シミリのロゴが映る。画像=ディズニーのデモデー映像

今回のデモデーは、3月に就任したダマロCEOのAI戦略の延長線上にある。ダマロ氏は5月の初の決算発表で、人間の創造性を中心に据え、クリエイターとディズニーIPの価値を尊重する形でAIを導入すると述べた。パーク部門ではAIで人員需要を予測し、家族旅行の計画にかかる手間を減らす試験を進めている。ヒュー・ジョンストンCFOは、AI生成コンテンツが増える環境で体験型事業は構造的に有利だと述べた。今年の参加5社のうち3社(フィールドAI、フィジカル・インテリジェンス、シミリ)は、パーク運営と来場者体験の課題を担った。

締めくくりでディズニー・アクセラレーターは、2014年以降デモデーの舞台に立った企業は75社だと明らかにした。当初はシード段階の企業を選んでいたが、今年の期には企業価値数十億ドル規模の企業が3社入った。15週間でディズニー経営陣100人以上が参加企業と面会し、ディズニーはエピックゲームズ、カフート、イレブンラボ、ドラマボックス、アニマージ、ハディと同様に、デモデー後も協業を続けるとした。

ディズニーとオープンAIの10億ドル契約、Sora終了で破談… 資金は未拠出

ディズニーは2025年12月、オープンAIに10億ドルを出資し、3年契約でディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズのキャラクター200以上をSoraで使えるようにすると発表した。俳優の肖像と声は除外した。オープンAIが3月24日にSora終了を発表すると、ディズニーは契約から離脱した。出資は本契約と承認手続きを残した段階で、資金は動いていない。オープンAIはSoraのウェブとアプリを4月26日に閉鎖し、APIを9月24日に終了した。

米カリフォルニア州バーバンクのウォルト・ディズニー・スタジオ敷地内の給水塔。写真=ディズニー

アクセラレーターで投資した5社は性格が異なる。生成AIの2社は消費者向け生成アプリではなく、ディズニーのスタジオと音楽部門の社内制作工程に入った。残る3社はロボットとシミュレーションでパーク運営と来場者調査を担った。

ネットフリックス、インターポジティブを5億8700万ドルで買収・ライオンズゲートはランウェイに出資… 制作工程AIを自ら保有

ネットフリックスは3月5日にインターポジティブの買収を発表し、7月の四半期報告書で買収額が現金5億8700万ドルだったと開示した。2022年設立のインターポジティブは撮影素材でモデルを学習させ、欠けたカットの補完、背景差し替え、照明補正などのポストプロダクションを処理する。16人のチームがネットフリックスに合流し、アフレック氏は上級顧問に就いた。テッド・サランドス(Ted Sarandos)共同CEOは7月の決算説明会で、今年ネットフリックス作品約300本で生成AIが使われたと述べた。

ライオンズゲートは2024年9月にランウェイと提携し自社ライブラリで専用の動画生成モデルを作ることにし、今年6月にランウェイへ出資し既存IPを使ったショート形式シリーズの共同開発に入った。出資額は非公表だ。ディズニーは2024年2月にエピックゲームズ(Epic Games)の株式15億ドル分を取得し、フォートナイト(Fortnite)とつながるゲームの世界を共同で作っている。

取引時期形態・規模内容
ディズニー–エピックゲームズ2024.2出資15億ドルフォートナイト連携のディズニー・ゲーム世界を共同開発
ディズニー–オープンAI2025.12発表 → 2026.3破談出資10億ドル計画キャラクター200以上のSoraライセンス、Sora終了で解約・資金未拠出
ネットフリックス–インターポジティブ2026.3買収5億8700万ドル(現金)撮影素材ベースのポストプロダクションAI、16人のチーム合流
ライオンズゲート–ランウェイ2024.9提携 → 2026.6出資(非公表)ライブラリ学習モデル、ショート形式シリーズ共同開発
ディズニー・アクセラレーター2026.75社に投資(非公表)ロボットAI 2社・生成AI 2社・データ合成1社

米スタジオの主なAI・技術投資。資料=各社、バラエティ、ハリウッド・リポーター、IBC

ロボット・スタートアップ投資、今年上半期188億ドル… 前年の年間額を超える

ロボット・スタートアップへの投資は今年上半期ですでに前年の年間額を超えた。資料=クランチベース

クランチベースの集計では、ロボット・スタートアップへのベンチャー投資は2024年の78億ドルから2025年に138億ドルに増え、今年は6月中旬までに188億ドルが流入して前年の年間額を上回った。第3四半期の投資額は99億ドルで、前年同期の43億ドルの2倍を超えた。ピッチブックはロボット・フィジカルAIをより広く定義し、2025年の投資を1009件、276億ドルと集計している。

資金はロボットのハードウェアよりも、多様なロボットに搭載する「ロボットの頭脳」モデルに多く向かった。ソフトバンク主導のラウンドでスキルドAI(Skild AI)は1月に14億ドルを調達し、企業価値140億ドルの評価を得た。ディズニー参加企業のフィジカル・インテリジェンスとフィールドAIも同じ分野の企業で、3社の企業価値はこの2年でそれぞれ10倍以上になった。

投資資金・作業スペース・経営陣メンタリング… 開発したIPは参加企業に帰属

ディズニーはプログラム案内で、参加企業に投資資金、ディズニーのクリエイティブ・キャンパスのコワーキングスペース、経営陣によるメンタリングを提供するとしている。投資額や持ち分条件は公表していない。期間中に開発した知的財産(IP)は、書面で別途合意しない限り参加企業に帰属する。各期5社前後を選び、対象はベンチャーキャピタルの出資を受けた成長段階の企業だ。公募ではなく、ディズニーが直接探すか、参加希望企業の投資家がディズニーに連絡する方式で選ぶ。参加企業は初期の約3週間、カリフォルニア州グレンデール(Glendale)の本社に滞在する。

ディズニーのポートフォリオページには69社が掲載されている。カフートは上場し、フェム(Fem Inc)はニールセン・グレースノート、フッドライン(Hoodline)はネクストドア、リトルビッツ(LittleBits)はスフィロ(Sphero)、メッセージイエス(Message Yes)はノードストロームに買収された。2025年の期にはアニマージ、ハディと共に縦型ショートドラマのドラマボックス(DramaBox)、リミナル・スペース(Liminal Space)が加わった。

2026年ディズニー・アクセラレーターの参加企業はフィールドAI、オープンアート、フィジカル・インテリジェンス、プロミス、シミリの5社。資料=ディズニー

参加5社の概要… ロボットAI 2社の企業価値は合計210億ドル

企業何をする会社かディズニーでの課題確認すべき点
フィールドAI地図やGPSなしに初めての現場でロボットを動かす「現場型ロボットの頭脳」(FFM)。ロボット本体ではなく走行知能を売るパーク駐車場の車両案内混雑・天候下の安全性、運営環境への適応
フィジカル・インテリジェンス画像と言語をロボットの手の動きにつなぐ汎用ロボットモデル(π0〜π0.7)、10月にAPIベータ公演会場裏の3Dメガネ整理作業成功率、実業務との連携
プロミス生成AIツールと制作管理を一つの作業環境にまとめたスタジオ(制作システムMUSE)実写とAIのハイブリッド撮影品質の一貫性、創作の統制
オープンアート100以上の画像・動画モデルを一つの作業の流れにまとめる創作プラットフォーム(オープンAIとは別会社)歌詞動画のビジュアル案案出しの時間短縮が完成作品の成果につながるか
シミリ実際のインタビューで作った仮想消費者で発売前の反応を試すウォルト・ディズニー・ワールドの旅行準備の分析シミュレーションと実際の予約行動の一致

参加5社の概要。「確認すべき点」はKエンターテックハブの分析項目。資料=ディズニー、各社

企業設立・本社創業者調達・企業価値
フィールドAI2023・アーバインアリ・アガ(元NASA JPL)2025.8 4億500万ドル、評価20億ドル → 最近 7億ドル、評価100億ドル
フィジカル・インテリジェンス2024・サンフランシスコハウスマン、レビン、フィンら7人2025.11 6億ドル、評価56億ドル → 2026.5 約10億5000万ドル、評価約110億ドル
プロミス2024・ベニスストロンポロス、バーン、クラークノースロード、a16z、グーグル、クロスビーム(非公表)
オープンアート2022・サンフランシスコココ・マオ、ジョン・チャオ(元グーグル)2026.1 シリーズA 3000万ドル
シミリ2025・パロアルトジュンソン・パク、リャン、バーンスタイン、ヤレン2026.2 1億ドル → 2026.7 2億ドル、評価20億ドル

2026年ディズニー・アクセラレーター参加企業の概要。資料=各社、ブルームバーグ、ビジネスインサイダー、テッククランチ

ロボット基盤モデル3社の企業価値は2024年以降それぞれ10倍以上に上昇した。資料=ブルームバーグ、ロイター、ビジネスインサイダー、各社

ディズニー・アクセラレーターのボニー・ローゼン(Bonnie Rosen)総責任者は「今年の参加企業は高度な専門性を備え、何よりこれらの技術が人のために責任をもって機能する方法について明確な視点を持って議論に臨んだ」と述べた。

フィールドAI… 地図・GPSなしで動く「現場型ロボットの頭脳」、売上・契約1億3500万ドル

フィールドAIの基盤モデルを搭載したヒューマノイド。同社は4足歩行・車輪型ロボットやヒューマノイドに同じモデルを使う。写真=フィールドAI

フィールドAIは、米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(JPL)で7年間ロボット自律走行の研究を率いたアリ・アガ(Ali Agha)CEOが、MIT出身のシャイェガン・オミドシャフィエイ(Shayegan Omidshafiei)最高科学責任者らと2023年にカリフォルニア州アーバイン(Irvine)で設立した。アガ氏はJPLで米国防高等研究計画局(DARPA)の地下探査競技(SubT)の自律走行チームを率いた。

フィールドAIの創業者兼CEO、アリ・アガ(Ali Agha)氏。画像=ディズニーのデモデー映像

中核製品は「フィールド基盤モデル(FFM)」だ。データ学習に物理法則に基づく推論とリスク認識の層を加え、事前の地図・GPS・経路設定なしに初めての現場でロボットを動かす。特定のロボットに縛られず、4足歩行ロボット、ヒューマノイド、車輪型ロボット、ドローンに同じモデルを載せる。顧客は既存のロボットに同社のセンサー・演算装置を取り付け、ロボット内部で動くソフトウェアを利用する。

フィールドAIのロゴを付けたヒューマノイドロボットが建物のロビーを自律歩行している。入口マットには「GENERAL ROBOT INTELLIGENCE」の文字が見える。画像=ディズニーのデモデー映像

顧客は建設、エネルギー、製造、データセンター、鉱山など人手の確保が難しい産業現場だ。3月12日にボストン・ダイナミクス(Boston Dynamics)と提携し、4足歩行ロボット「スポット(Spot)」にFFMを載せて建設現場の進捗を自動記録するサービスを始めた。同社はこの方式で点検・記録時間が手作業より90%以上短縮されたとしている。3月16日にはエヌビディア(NVIDIA)と現場データをデジタルツインに移してロボットを訓練する協力を、9月にはキャタピラー(Caterpillar)との産業AI協力を発表した。売上と契約額の合計は6月に1億ドル、10月に1億3500万ドルを超え、顧客は30社以上だ。

フィールドAIのモジュールを載せたボストン・ダイナミクスの四足歩行ロボット「スポット」が建設現場を自律走行している。事前の地図なしに資材や障害物の間を進む。画像=ディズニーのデモデー映像

2025年8月に2回で計4億500万ドルを調達した。ベゾス・エクスペディションズ、エヌビディアの投資部門、コースラ・ベンチャーズ、インテル・キャピタル、テマセク、プリズム・キャピタル、ビル・ゲイツ氏らが参加し、企業価値は20億ドルだった。ビジネスインサイダーは同社が10月に企業価値100億ドルで7億ドルを調達したと報じた。

ディズニーとはディズニー・エクスペリエンス・テクノロジー、ウォルト・ディズニー・イマジニアリングR&Dと共に、複雑な地形や天候の変化の中でロボットがパークの駐車場運営を支援する方法を検証した。イマジニアリングR&Dは同社の状況認識・走行技術を今後のキャラクター型ロボット開発に生かす。

フィールドAIは現場での実績を前面に出した。ディズニーが3日に公開したデモデー映像で同社は、中核チームがグーグル・ディープマインドとNASA JPLの出身で、火星ヘリコプターや火星探査車、DARPAの競技に携わってきたと紹介した。同社は「デジタルの世界では成果の80%が良ければ大成功だが、物理の世界では99%でも受け入れられない」と述べ、安全とリスク認識をモデルに組み込む必要性を強調した。駐車場の試験を担うディズニー・エクスペリエンス・テクノロジーのチームは「映画『カーズ』のキャラクターや『ウォーリー』のロボットが駐車位置を案内するところを想像してほしい」と語った。ディズニーはロボットの動作とともに、来場者の反応も見ている。

フィジカル・インテリジェンス… 汎用ロボットモデル「π」シリーズ、10月に外部開発者向けAPI

フィジカル・インテリジェンスは2024年、グーグル・ディープマインド出身のカロル・ハウスマン(Karol Hausman)CEO、UCバークレーのセルゲイ・レビン(Sergey Levine)教授、スタンフォード大のチェルシー・フィン(Chelsea Finn)教授、ストライプ初期メンバー出身の投資家ラッキー・グルーム(Lachy Groom)氏ら7人がサンフランシスコで設立した。作業ごとのプログラミングなしに、一つのモデルで多様なロボットに多様な作業をさせることを目指す。

2024年10月に視覚・言語・行動を扱う初の汎用ロボットモデルπ0を発表し、2025年2月にコードとモデルを「openpi」として公開した。2025年4月のπ0.5は学習データにない家の台所や寝室を片付けた。2025年11月にπ0.6と強化学習を加えたπ*0.6を、今年4月に多段階の作業を条件に沿って実行するπ0.7を発表した。10月13日には外部開発者が自社のロボットデータでπモデルを微調整し推論まで任せられる「Pi API」のベータ版を公開した。製品売上は公表していない。

フィジカル・インテリジェンスのロボットアームが、皿洗い、工具箱の整理(大きい物は下・小さい物は上)、果物かごの仕分け(バナナは上・ライムは下)、まな板の上の作業を自律で行う場面。一部は4〜8倍速で、小さな画面には「人のデータなし(Without human data)」で学習した場合の比較が付いている。画像=ディズニーのデモデー映像

Pi APIベータは、顧客がロボットデータをアップロードすると、フィジカル・インテリジェンスが管理する計算資源でπモデルを微調整し、ホスト型推論ゲートウェイで実行する仕組みだ。初期顧客のアーモンド(Almond)は双腕ロボット「アクソル」に自社組立用部品のバリ取りを4日で教え、アクター(Actor)のホイールローダーは商用現場でダンプトラックへの積み込みを行っている。料金は公開しておらず、ウェイトリスト制だ。言語モデル企業がAPIでモデルを売る方式を、ロボットモデルに持ち込んだ。

スライブ・キャピタル、ラックス・キャピタル、アルファベットのキャピタルG、ジェフ・ベゾス氏、オープンAIなどが出資する。2025年11月に企業価値56億ドルで6億ドルを調達し、今年5月に約10億5000万ドルのシリーズCを約110億ドルの評価で登記した(会社は未発表)。ブルームバーグは10月末、約200億ドルの評価での追加調達交渉を報じた。

ディズニーとはウォルト・ディズニー・イマジニアリングと共に、上演の合間に洗浄する3Dメガネを手に取って並べるロボットを検証した。ディズニーは、この作業をロボットが担えばキャストメンバー(Cast Member、パーク従業員)が来場者対応により多くの時間を使えると説明した。

フィジカル・インテリジェンスの技術スタッフ、ビクター・ファン(Victor Hwang)氏。背後に実験用ロボットアームが見える。画像=ディズニーのデモデー映像

3Dメガネの整理は見た目より難しい。トレーを運んでラックに置き、メガネをつまみ、絡まりをほどき、床に落ちたものまで拾わなければならない。フィジカル・インテリジェンスの技術スタッフ、ビクター・ファン(Victor Hwang)氏は「かなり難しい精密操作の課題だ」と話す。同社はキュウリを切る、Tシャツや箱をたたむ、台所を片付けるといった基本作業からロボットに教えてきた。常識を多く学ぶほど、特定の作業への適応力も上がったという。モデルは視覚、触覚、腕の位置感覚を入力とし、人の実演から学ぶ。ファン氏は「まだ初期段階で、ソフトもハードも先は長い」と語った。試験を見たディズニーのイマジニアリングR&Dの担当者は「思っていたよりはるかに進んでいた」と述べた。ディズニーは3Dメガネの管理を、既存パークと新アトラクションで3D体験を続けるための課題と位置づける。

プロミス… YouTube・フルスクリーン出身者の生成AIスタジオ、制作システム「MUSE」

プロミスのロゴ。法人名はプロミス・アドバンスト・イマジネーション。資料=ディズニーのデモデー映像より

プロミスの法人名は「プロミス・アドバンスト・イマジネーション(Promise Advanced Imagination)」だ。2024年9月にカリフォルニア州ベニス(Venice)で法人を設立し、11月19日に正式に発足した。マルチチャンネルネットワークのフルスクリーン(Fullscreen)を創業したジョージ・ストロンポロス(George Strompolos)CEO、YouTubeのクリエイター収益分配プログラムの構築に関わったジェイミー・バーン(Jamie Byrne)社長兼COO、AI映画監督デイブ・クラーク(Dave Clark)最高クリエイティブ責任者(CCO)が共同創業者だ。ストロンポロス氏は、2023年末にクラーク氏がRedditに投稿した架空のアディダス広告を見て自ら連絡したとフォーブスに語った。

プロミスの共同創業者で最高クリエイティブ責任者(CCO)のデイブ・クラーク氏。写真=ディズニーのデモデー映像より

同社は3部門で動く。オリジナルIPの開発と共同制作を担うスタジオ部門「プロミス」、2025年2月に買収したAI映画学校「キュリアス・レフュージ(Curious Refuge)」、AI視覚効果とプリプロダクションを支援する「ジェネレーション・カンパニー(The Generation Company)」だ。キュリアス・レフュージは170カ国で1万2000人を指導した。発足1年の時点でホラー、アニメ、ファミリー・アニメーション、アクション、ドラマの映画・シリーズ10作品を開発リストに載せた。AIと実写撮影を組み合わせた初の長編「ニンジャパンク(NinjaPunk)」はティーザーを公開した。ネットフリックス、ワーナーメディア、HBO、ソニー・イメージワークス、YouTube、イマジン・エンターテインメント、テクニカラー出身の人材が加わり、フォーブスは7月時点の従業員数を35人と伝えた。

独自の制作ソフト「MUSE」は企画からポストプロダクションまで生成AIを組み込み、プロンプト・設定・承認の記録をバージョンごとに残す。「コピーライト・ガーディアン(Copyright Guardian)」は成果物の知的財産の衝突の可能性を点検する。生成AIの成果物を、スタジオが所有し、保険をかけ、編集して公開できる作品にすることが目標だ。クラーク氏は出資が決まる前に、映画がどのような姿になるかをスタジオに示すために生成AIを使っている。

ピーター・チャーニン(Peter Chernin)氏のノースロードとアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のアンドリュー・チェン(Andrew Chen)氏がシード投資を主導し、オフライン・ベンチャーズ、フレーム・アイオー(Frame.io)創業者エメリー・ウェルズ(Emery Wells)氏、ボックス(Box)CEOアーロン・レヴィ(Aaron Levie)氏が参加した。2025年5月にはグーグルのAIフューチャーズ・ファンド、マイケル・オーヴィッツ(Michael Ovitz)氏のクロスビーム・ベンチャー・パートナーズ、キブ・ベンチャーズ、サガ・ベンチャーズが加わった。同時にグーグルと技術提携し、MUSEにグーグルのAI技術を取り入れた。金額は非公表だ。

デモデーでは実写撮影と生成AIの作業を組み合わせたハイブリッド映画制作を実演した。背景や質感のない灰色のセット、いわゆるグレーボックス(grey box)で俳優が演技し、アーティストがその演技を異なる物語の舞台へ移す。プロミスはウォルト・ディズニー・スタジオと共に、各工程でクリエイターの仕事を守りながらAI技法を映画制作に取り入れる方法を検証している。

クラーク氏はグレーボックスの利点を撮影現場の時間で説明した。グリーンスクリーンのセットでは、カメラの角度を5度変えるだけでスクリーンを約6m(20フィート)追加し照明を組み直す必要があり、1時間、長ければ1日かかる。グレーボックスは照明が平らでグリーンスクリーンの色かぶり(green spill)がなく、監督はより速く動き、俳優はより多くのテイクを撮れる。ディズニーのロブ・ブレドー(Rob Bredow)クリエイティブ・イノベーション担当上級副社長は、白雪姫のマルチプレーン・カメラからトイ・ストーリーまで、ディズニーでは芸術家とエンジニアが共に働いてきたとし、AIも同じように扱うと述べた。両社は「ボタン一つで映画を作るAIがあるという誤解があるが、ディズニーもプロミスもそうした作り方はしない」とし、脚本、絵コンテ、アニマティックと続く工程は変わらないと説明した。クラーク氏は「この技術がディズニー・ファミリーの一員になる新しいIPを開くかもしれない」と語った。

デモデー映像のプロミス紹介場面。3Dキャラクターモデルに髪のガイドを設定する作業画面。写真=ディズニーのデモデー映像より

オープンアート… 従業員20人前後で年間売上7000万ドル、一文から1分動画

ディズニーはデモデー映像で、オープンアートとシミリを「ファンとのつながり」を共に考える2社としてまとめて紹介した。写真=ディズニーのデモデー映像より

オープンアートは、グーグルの社内インキュベーター「エリア120(Area 120)」出身のココ・マオ(Coco Mao)CEOとジョン・チャオ(John Qiao)CTOが2022年にサンフランシスコで設立した。AI画像のプロンプト共有サービスから始まり、今では100以上の画像・動画生成モデルを一つの場で使える創作プラットフォームだ。2025年2月に同じキャラクターを複数の場面に一貫して登場させる機能を、同年夏に文章・台本・歌一つを1分の物語動画にする「ワンクリック・ストーリー」を公開した。キャラクターVlog、ミュージックビデオ、解説動画の3種類のテンプレートがある。料金は月14ドルからだ。

オープンアートの共同創業者兼CEO、ココ・マオ氏。画像=ディズニーのデモデー映像

オープンアートは2025年にサンフランシスコで「AIインフルエンサー・サミット」を開き、AIキャラクターが出演するリアリティ番組「ボット・ハウス(Bot House)」を制作した。ワンクリック・ストーリーの後に出した「ディレクター」は、利用者が台本や場面構成を自ら調整できるツールで、自動生成の結果よりも物語の主導権を求める利用者の声を反映したと同社は説明している。

調査会社サクラ(Sacra)は同社の2025年の年間経常収益(ARR)を7000万ドル、月間利用者を800万人と推計し、従業員20人前後で黒字だと分析した。2025年までの調達額は500万ドルにとどまり、今年1月にキャナン・パートナーズ主導で3000万ドルのシリーズAを調達した。同社は著作権保護キャラクターのアップロード時に生成を初期設定で遮断し、権利者とのライセンス協力を進めるとしている。

ディズニーとはディズニー・ミュージック・グループ(Disney Music Group)と協業した。楽曲のテーマや雰囲気、感情のトーンをもとに歌詞動画のビジュアル案を作成・評価する専用ツールを制作チームに提供し、複数案の作成と比較の時間を数週間から数時間に短縮した。ディズニーは大型リリースの合間にファン向け音楽コンテンツを出すためにこのツールを使う計画だ。

マオCEOはこの日、動画エージェント「オープンアート・ディレクター」を実演した。利用者が台本や音声でアイデアを伝えると、エージェントが台本・絵コンテ・ムードボードを先に示し、承認を得てから動画を作る。初稿の後も場面単位で修正できる。同社はディズニー向けにIP侵害検知システムを別途構築したと明らかにした。ディズニー・ミュージック・グループのカレン・リーバーマン(Karen Lieberman)コマース・デジタル担当上級副社長は、ソーシャルメディアやディズニープラス向けの動画需要が急増した一方、往年のカタログはそうした動画を作らなかった時代の曲だと説明した。両社は1997年のアニメーション『ヘラクレス』の「Go the Distance」に、曲調に合わせた映像を新たに制作した。リーバーマン氏は「以前は数週間、数カ月かかった作業を、より速く低コストでできる」と語った。

オープンアート・ディレクターの編集画面。シーンクリップ、BGM、ナレーション、字幕がトラックごとに分かれ、生成後もシーン単位で作り直しや修正ができる。画像=ディズニーのデモデー映像

シミリ… 実際のインタビューで作る「仮想の消費者」、CVSやデロイトが顧客

シミリのロゴ。ピクセルキャラクターは創業者がスタンフォードで行った仮想の町「スモールビル」実験を思わせる。画像=ディズニーのデモデー映像

シミリは、スタンフォード大の博士課程でAIエージェント25体が仮想の町で暮らす「スモールビル(Smallville)」実験を率いたジュンソン・パク(Joon Sung Park)CEOが、同大のパーシー・リャン、マイケル・バーンスタイン両教授、レイニー・ヤレン氏と2025年に設立した。人間の行動を予測する基盤モデルを作り、企業が実際の消費者の代わりに仮想の人物へ商品やメッセージへの反応を尋ねられるようにする。

シミリの共同創業者兼CEO、ジュンソン・パク(Joon Sung Park)氏。画像=ディズニーのデモデー映像

代表性のある1000人に2時間ずつ深層インタビューを行い、その記録から個人ごとのAIエージェントを作る。世論調査会社ギャラップ(Gallup)との提携で数百万人規模の回答データに範囲を広げた。公表された顧客はCVSヘルス、資産運用アプリのウェルスフロント(Wealthfront)、デロイト、ギャラップなどだ。パクCEOは上場企業の決算説明会の模擬シミュレーションでアナリストの質問10問中8問を的中させたとブルームバーグに語った。

今年2月にインデックス・ベンチャーズ主導の1億ドルのシリーズAで表舞台に出て、7月30日にはグリーンオークス(Greenoaks)主導で2億ドル超のシリーズBを企業価値20億ドルで調達した。CVSヘルス・ベンチャーズ、ベイン・キャピタル・ベンチャーズが参加し、フェイフェイ・リー(Fei-Fei Li)氏、アンドレイ・カルパシー(Andrej Karpathy)氏が個人投資家として加わった。

競争も始まっている。マルチエージェントで人口集団をシミュレーションするアール(Aaru)は2025年12月、レッドポイント主導のシリーズAで「ヘッドライン」企業価値10億ドルを得て、9月30日にはEYと提携し、金融業界向けにマーケティング・価格・M&A判断用のシミュレーション販売を始めた。両社は消費財企業、コンサルティング会社、金融機関という同じ市場調査の顧客を奪い合う。シミリは実在の人へのインタビューで作る個人別エージェントをアールとの違いに挙げる。ディズニーはこの技術をウォルト・ディズニー・ワールドの来場者調査と商品文言の検討に用いた。

ディズニーとはディズニー・エクスペリエンス(Disney Experiences)と共に、商品名や商品説明からデジタル予約画面まで、ウォルト・ディズニー・ワールドの来場者が旅行を準備する過程の細部を分析した。ディズニーはこれを既存の来場者調査を補強する手段と説明した。

ディズニーパークで子どもの来場者とあいさつするミッキーマウス。シミリはウォルト・ディズニー・ワールド来場者の旅行準備を、フィールドAIとフィジカル・インテリジェンスは来場者の目に触れにくい駐車場や公演会場裏の業務を担った。画像=ディズニーのデモデー映像

シミリは、仮想の人物が実在の人を置き換えるわけではないと強調する。同社は毎週数万から数十万人の実在の人々と対話し、考え方・価値観・好み・行動をモデルに反映していると説明し、「すべてのシミュレーションは実在の人々と実データに基づく」「人と話すことを省く方法ではない」と述べた。ウォルト・ディズニー・ワールド側は、商品名、ウェブサイト上の配置、商品説明といった小さな決定が大きな違いを生むとし、一つのコンセプトが「12通りに分かれうる」段階でシミリを使って案を磨いていると語った。

シミリのデモ画面。「ウォルト・ディズニー・ワールドのウェブサイトをどうすればより直感的にし、来場者が1日の計画を立てやすくできるか」という問いに対し、仮想来場者集団の反応をナビゲーション・日程計画・パーソナライズのテーマに分けて示す。画面上のテーマ分布は例示。画像=ディズニーのデモデー映像
企業ディズニーの協業部門試験課題デモデーでの公開内容
フィールドAIディズニー・エクスペリエンス・テクノロジー、イマジニアリングR&Dパーク駐車場の車両案内天候・地形の変化の中での自律走行、キャラクターロボット(BDXドロイド)に走行技術を応用
フィジカル・インテリジェンスウォルト・ディズニー・イマジニアリング公演会場裏の3Dメガネ整理トレー運搬・メガネの把持・絡まったメガネの解きほぐしなどの精密操作
プロミスウォルト・ディズニー・スタジオハイブリッド映画撮影グレーボックスでの演技を生成AIで別の背景に移す工程
オープンアートディズニー・ミュージック・グループカタログ曲の映像案『ヘラクレス』「Go the Distance」の追加映像、IP侵害検知システム
シミリディズニー・エクスペリエンス(ウォルト・ディズニー・ワールド)来場者の旅行準備の分析商品名・説明・予約画面への仮想来場者の反応

ディズニー・アクセラレーター2026の参加企業別協業課題。いずれも試験段階。資料=ディズニー

2025年参加のアニマージ、『オジー・フォックス』シーズン2を制作中

昨年の参加企業も1年間の協業成果を携えて再び登場した。産業用3Dプリンティング企業のハディ(Haddy)は、ウォルト・ディズニー・イマジニアリングと共に出力したセットや試作品を展示した。ディズニーランド・リゾートの「ジャングルクルーズ(Jungle Cruise)」の小道具カヌーのレプリカ、上海ディズニーリゾートの「キング・ルーイ(King Louie)」の玉座、岩壁の外装材、テーマ照明器具などが並んだ。

アニマージは、アーティスト主導のAIアニメーション工程「フリップムーブ(FlipMove)」を実演した。アーティストが描いたアニマティック(スケッチ動画)から3Dショットを組み立て、レイアウト、監督のリテイク、中割りを高速化する。フリップムーブはアニマージがディズニー・ジュニア(Disney Jr.)と9カ月かけて共同開発したシリーズ『オジー・フォックス(Ozzy Fox)』の制作に使われ、YouTubeで先行公開された同シリーズはシーズン2の制作に入った。

ロボットAI 2社がディズニーで得るもの… 屋外・混雑環境の試験場

ディズニーはデモデー映像で、フィジカル・インテリジェンスとフィールドAIをロボット分野の参加企業として並べて紹介した。画像=ディズニーのデモデー映像
フィールドAIの基盤モデルを搭載した4足歩行ロボットが産業現場の階段を上っている。写真=フィールドAI

フィジカル・インテリジェンス(約110億ドル)とフィールドAI(100億ドル)の企業価値を合わせると約210億ドルになる。ディズニーは両社を成長段階の企業と位置づけた。両社がディズニーから得るのは資金よりも試験環境だ。フィールドAIの導入先は人が担いにくい産業現場の点検業務が中心で、フィジカル・インテリジェンスは製品売上を公表していない。

テーマパークの駐車場は天候や車・歩行者の流れが絶えず変わる。舞台裏の3Dメガネ整理は上演ごとに同じ動作が繰り返される。イマジニアリングR&DはフィールドAIの走行技術をキャラクター型ロボット開発に生かすとしており、産業現場向けのロボット知能を来場者の前に立つキャラクターロボットへ移す道筋になる。

ウォルト・ディズニー・イマジニアリングR&Dは、舞台裏の作業用ロボットとキャラクター・ロボットは同じ技術の上にあると説明した。周囲を認識し、物理世界で動き、状況が変われば適応する能力だ。「アバター」エリアのナヴィ・シャーマン、空を飛ぶロボットのスパイダーマン、歩くベビー・グルートを例に挙げ、「未来のパークはロボットのキャラクターであふれる」と述べた。舞台で演じるロボットもいれば、パーク内を歩き回るロボットもいる。

研究者が二足歩行ロボットを安全用リフトに吊るしたまま歩行試験をしている。デモデー映像でキャラクターロボット開発を紹介する場面。画像=ディズニーのデモデー映像

イマジニアリングはスター・ウォーズのBDXドロイドの概念実証で走行技術とキャラクターの演技を組み合わせており、そのためにフィールドAIに注目したと明らかにした。3Dメガネ整理の作業も、認識と精密操作という同じ能力を扱う。イマジニアリングは「厳しい運営現場で得た教訓が、来場者のために作るものを改善する」と述べた。

生成AI投資、消費者向けアプリのライセンスから社内制作工程へ

ディズニーは生成AI企業に対して訴訟と契約を併用している。2025年6月にユニバーサルと共に画像生成企業ミッドジャーニー(Midjourney)を著作権侵害で提訴し、キャラクター・エーアイ(Character.AI)とグーグルに停止要求書簡を送った。オープンAIとのライセンス契約はSoraの終了で3カ月で終わった。

今年のアクセラレーターの生成AI協業は、ファン向けサービスではなくディズニーの制作チームが使うツールの側にある。プロミスはウォルト・ディズニー・スタジオの撮影工程に、オープンアートはディズニー・ミュージック・グループ社内の案出しに入った。ディズニーは7月の発表でオープンアートを「IPを保護しながら」クリエイターの視覚的な物語づくりを支えるプラットフォームと紹介した。ネットフリックスが買収したインターポジティブ、ライオンズゲートが出資したランウェイも、スタジオ自身の制作物とライブラリの中で使うツールだ。

米視聴者、AI俳優・脚本には拒否感… 視覚効果・字幕は過半が受容

ルミネイト(Luminate)が7月24日に公表した特別報告書「AIとメディア:視聴者の態度(AI & Media: Audience Attitudes)」によると、生成AIを知る米国の映画・TV視聴者の46%は、実在しない合成俳優の登場に不快感を示した。快適と答えたのは27%だった。AIで書いた脚本も不快(40%)が快適(30%)を上回った。一方、効果音は快適が12ポイント、特殊・視覚効果は9ポイント、アニメーションのイラストは8ポイント多かった。調査は5月5〜26日、米国の13歳以上2000人を対象に行った。

米国の映画・TV視聴者は俳優や脚本をAIで代替することに不快感を示し、効果音・視覚効果には快適との回答が多い。資料=ルミネイト

ユーガブ(YouGov)が2025年10月に米国の成人1106人に尋ねた調査も同じ傾向だ。全俳優をAIキャラクターに置き換えることには75%が、AIによる脚本執筆には57%が「受け入れられない」と答えた。視覚効果の生成(61%)、海外版字幕の翻訳(64%)、吹き替え音声の制作(52%)は過半が受け入れられるとした。ベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)の調査では、AIが番組全体を作ると関心が下がるとの回答が55%だった一方、アイデア出しにAIを使う場合は23%にとどまった。

俳優の置き換えや脚本執筆には反対が、視覚効果や字幕翻訳には賛成が多い。資料=ユーガブ(ルミネイト報告書より)

ディズニーが今回選んだ協業は、反発の少ない側にある。プロミスの工程では俳優がグレーボックスで自ら演じ、AIは背景と質感を加える。視聴者が拒否感を示した俳優の置き換えや脚本生成ではなく、反対の少ない背景・視覚効果の側でAIを使う構造だ。

年齢によって反応は大きく分かれる。AIが書いた映画・TVを見るかとの問いに、13〜17歳は「関心が高まる」が「下がる」を32ポイント上回った。18〜24歳は26ポイント、65歳以上は43ポイント下回った。18〜24歳は生成AIを使ったことがあるが今は使っていないとの回答も19%と、年齢層で最も高かった。ルミネイトは「Z世代を一枚岩とみなすのは誤りだ」と指摘した。

AIが書いた映画・TVへの純関心は13〜17歳だけが大きくプラスで、18〜24歳と55歳以上はマイナスだった。資料=ルミネイト

音楽リスナーの63%「AIが曲全体を作れば関心低下」… 構想・音響補助への反発は小さく

音楽では、AIが人の声や創作を代替するほど反発が強まる。ベインの調査で、毎週音楽を聴く米国人3500人のうち63%が、AIが曲全体を作れば関心が下がると答えた。AI歌手の新規創出(58%)、故人歌手の新曲(56%)、ボーカル生成(52%)も過半に達した。曲の構想や歌詞の改善(33%)、楽器・ボーカルの音響強化(34%)では、関心が下がるとの回答は3分の1程度だった。

AIが曲全体やボーカルを作るほど関心が下がるとの回答が多く、構想・音響強化への反発は小さい。資料=ベイン・アンド・カンパニー(ルミネイト報告書より)

ルミネイトの調査でも、人間の歌手のスタイルや音色で作ったAI新曲に不快とする回答が47%で、快適(27%)を上回った。ただし無関心も4分の1前後あり、快適または気にしないリスナーを合わせると過半になる。ハリウッド・リポーター(The Hollywood Reporter)とマイアミ大学フロスト音楽院(Frost School of Music)の調査では、好きな歌手がAIの助けで作った音楽への純関心はマイナス20ポイント、好きな歌手の許可を得て似た声で作った新人の音楽はマイナス27ポイントだった。モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)の調査では、全面的にAIで作った音楽の発表への純賛成は全体でマイナス20ポイントだったが、18〜29歳はプラス17ポイントだった。

ディズニー・ミュージック・グループがオープンアートと行った作業は、曲ではなく曲に付ける映像だ。「Go the Distance」の音源と声はそのままに、映像案だけをAIで増やした。リスナーが拒否感を示す曲・ボーカルの生成とは別の領域だ。

韓国では、ハイブ(HYBE)が2023年5月にミッドナット(MIDNATT、イ・ヒョン)の「Masquerade」を6言語で発表した。歌手本人が歌った外国語の録音に、ネイティブ話者の発音データを重ねるスーパートーン(Supertone)の技術を使った。ベインの調査では、歌手の声でボーカルを現地語に移すことについて「関心が下がる」(43%)と「変わらない」(43%)が同率で、「関心が高まる」は13%だった。調査結果からは、K-POP事務所が多言語版やリミックスにAIを使う際、歌手本人の録音と同意を前提にし、利用を開示する方が反発は小さい。

米国人の52%が生成AIを利用… 映画・TV 72%、音楽73%「AI使用は開示を」

生成AIの利用者はすでに過半数だ。ルミネイトの調査では、米国の13歳以上の52%が生成AIを定期的または時々使っていると答えた。13〜17歳は66%、65歳以上は37%だった。生成AIを知る回答者の38%は特定の作家のスタイルで画像を作ったことがあり、13〜17歳では49%に達した。ルミネイトは、画風そのものは著作権の保護対象ではないが、スタイルの模倣がクリエイターの作品価値を損なうとの懸念が大きいと指摘した。ディズニーはミッドジャーニーを著作権侵害で提訴し、オープンアートはディズニー向けにIP侵害検知システムを構築した。

AIを使ったなら開示すべきだという要求は媒体を問わない。ハブ・エンターテインメント・リサーチ(Hub Entertainment Research)の調査では、米国の消費者の72%がTV番組や映画の制作にAIを使った場合は常に開示すべきだと答えた。イプソス(Ipsos)とディーザー(Deezer)の調査では、音楽配信利用者の73%が、サービスが100%AIで作った曲を推薦するなら知りたいとした。米国のゲーマー(18〜44歳)の49%は、AIをどこに使ったかすべて開示すべきだと答えた。プロミスのMUSEはプロンプトと承認の記録をバージョンごとに残し、作品のどこにAIが使われたかを追跡できるようにしている。

映画・TVと音楽のいずれも70%超がAI使用の開示を望んだ。資料=ハブ・エンターテインメント・リサーチ、イプソス/ディーザー、ナショナル・リサーチ・グループ(ルミネイト報告書より)

CJ ENM『アパート』、俳優は屋内撮影・背景はAI… 撮影4日

プロミスが実演した工程は、韓国ではすでに長編で形になっている。CJ ENMは今年5月、動画配信サービスのティービング(TVING)でAIハイブリッド長編『アパート(The House)』を公開した。俳優の演技は屋内スタジオで撮影し、背景と視覚効果はすべてAIで生成して、撮影は4日で終えた。グーグルのイマジェン(Imagen)、ナノバナナ(Nano Banana)、ビオ(Veo)を制作パイプラインに組み込み、今年2月発足の「AIコンテンツ・アライアンス」所属の制作会社ドハンフィルム(더한필름)とソルトメーカー(쏠트메이커)が参加した。

両社の工程は同じ地点にあるが、外部の技術企業との関係は異なる。CJ ENMは社内AI組織がビッグテックのツールを制作に適用した。ディズニーは外部AI企業を15週間事業部門と共に働かせ、投資資金を入れた。韓国の制作会社が生成AI工程を増やすほど、ツール供給企業との関係を利用契約から共同検証・出資関係に広げるかが次の選択肢になる。

『アパート』の工程も、海外調査で反発が少ない側に近い。演技は俳優が担い、背景と視覚効果をAIが作った。韓国の制作会社が生成AIの活用を広げる際、俳優の置き換えや脚本生成より、視覚効果・吹き替え・字幕といったポストプロダクションから使い、利用を開示する方法が、ルミネイトやユーガブの調査結果と合致する。

エバーランドの4足ロボットはパレードの先頭に… ディズニーは駐車場・3Dメガネから

韓国のテーマパークのAIロボットは、まず公演の舞台に立った。エバーランド(에버랜드)は2025年の秋祭りでレインボーロボティクス(레인보우로보틱스)の4足歩行ロボットRBQ 2台を「スマイリー・パンプキン・パレード」の先頭に立たせた。韓国のテーマパークのパレードにロボットが加わった初の事例だ。ディズニーが今回検証したロボットは、来場者の目にほとんど触れない駐車場と舞台裏にいる。

舞台裏の業務をロボットに教える取り組みは、韓国ではホテルが先行した。ロッテホテル・ソウル(롯데호텔 서울)は宴会スタッフのナプキンを折る動作を記録し、韓国のロボットAIスタートアップ、リアルワールド(RLWRLD)の学習データに使っているとAP通信が5月に報じた。ディズニーがフィジカル・インテリジェンスと3Dメガネ整理を選んだように、韓国のテーマパークや公演会場も運営スタッフの反復作業をまずデータ化しておけば、ロボット導入のテーマを選びやすくなる。

SMのカルチャーテック・チャレンジは初期企業対象… ディズニーは成長段階企業

韓国のエンタメ企業もスタートアップ協業プログラムを運営している。SMエンターテインメント(SM엔터테인먼트)のCVC、SMカルチャーパートナーズ(SM컬처파트너스)はアクセラレーターのCNTテック(씨엔티테크)と「カルチャーテック・チャレンジ」を開き、2024年の第2期では15社がSMと事業実証を行った。2025年の第3期は政府の初期創業支援プログラムの入居・卒業企業に対象を絞った。CJグループはアクセラレーター・プログラム「オベンターズ(오벤터스)」でスタートアップ40社を育成した。

ディズニーは今年の参加企業を成長段階の企業と紹介した。フィールドAIはすでに3大陸でロボットを商用稼働させており、フィジカル・インテリジェンスは汎用ロボットモデル分野の先頭集団に入る。韓国のプログラムが政府の創業支援と連動して初期企業を育てる形だとすれば、ディズニーは技術が検証された企業をパーク、スタジオ、音楽部門の実際の課題に結びつける。韓国の放送・エンタメ企業が生成AIやロボットの企業と組む際、相手企業の段階と社内課題の範囲を合わせて決める方法として参考になる。 ディズニーは公募を行わず、自社のネットワークと投資家の紹介で参加企業を探す。対象はベンチャー投資を受けた成長段階の企業で、米国ベンチャーキャピタルからの出資を必須とする条件はプログラム案内にない。韓国企業も投資家を通じてディズニーに連絡でき、ディズニーの事業課題と自社技術の適合性を説明する準備が必要だ。

ディズニーの課題は駐車・3Dメガネ・商品文言の単位…韓国CVCに海外成長段階AI企業のトラック

ディズニーは「パークの自動化」のような大きな目標ではなく、駐車案内、3Dメガネ整理、商品説明の文言のように結果を測れる業務を課題に選んだ。韓国のテーマパークや公演会場も、パレード演出より公演ごとに繰り返される裏方業務から試験課題を選べば、導入前後を数字で比較できる。

参加企業はすでに商用顧客とモデルを持つ成長段階の企業で、15週間でデモまで到達した。韓国のCVCやアクセラレーターは、初期企業の育成とは別に、海外の成長段階AI企業に少数出資し事業部の課題を結びつけるトラックを検討する価値がある。開発したIPを参加企業が保有するディズニーの条件は、海外企業が参加を判断する際に重視する項目だ。

生成AIの協業には権利確認ツールが組み込まれていた。オープンアートはディズニー向けにIP侵害検知システムを構築し、プロミスは「コピーライト・ガーディアン」で成果物を点検する。韓国の事務所や制作会社がカタログ映像やハイブリッド撮影を試す際も、権利確認の手順を最初から設計に入れる必要がある。

SBS『キム部長』3分のAIシーン、KBSのAIガイドライン… 放送局の課題は工程の選択と表示

韓国の放送局も制作にAIを取り入れている。SBSのドラマ『キム部長(김부장)』は第2話で、約3分の回想の銃撃・追跡シーンを実際の撮影なしにAIで制作した。放送メディア通信委員会(방송미디어통신위원회)と韓国電波振興協会(한국전파진흥협회)が開いた「2026放送メディアAI革新人材養成セミナー」では、このシーンに加え、MBCのバラエティ『新人監督キム・ヨンギョン(신인감독 김연경)』のAI活用、北中米ワールドカップのリアルタイムAI字幕・画面解説、AI音声のラジオニュース、AIリムーバーを使ったポストプロダクション自動化の事例が紹介された。KBSはAIプロダクションを開設し、アナウンサー10人余りが自分の声をAI音声合成に使うことに同意した。MBCは2024年にAI戦略子会社DOST11を設立し、SBSは「AIパートナーシップチーム」を中心に「スブスAI」を運営している。

放送局の使い道は、米国の視聴者が受け入れられると答えた領域に集まっている。字幕・画面解説・音声ナレーション・ポストプロダクションは、ユーガブの調査で受容が反対を上回った工程だ。『キム部長』のAIシーンは俳優を置き換えず、撮影が難しい場面を作った。ただ実写のように見える場面であるため、視聴者にAIの使用をどう知らせるかが併せて問われる。

表示は法律の問題でもある。1月22日に施行されたAI基本法は生成AIの結果物に表示義務を設け、政府は1年以上過料を科さない啓発期間を運用している。科学技術情報通信部の解釈では放送局はAI利用事業者に当たらないが、KBSは2025年8月に「KBS AIガイドライン」を定め、詳細な指針を別に出すとした。米国の消費者の72%がTV・映画でのAI使用を常に開示すべきだと答えた調査と同じ方向だ。

ディズニーと韓国の放送局の違いは、AI企業との関係にある。韓国の放送局は子会社や社内組織でAIを育て、ディズニーは外部の成長段階企業に出資して事業部の課題を任せた。広告収入が減る地上波が、すべての技術を自前で開発するのは難しい。韓国の放送局は、視聴者の拒否感が低いポストプロダクション・字幕・音声の工程で外部AI企業と試験課題を決めて共に検証し、制作過程でAIを使った箇所を記録・表示する仕組みを併せて整えられる。プロンプトと承認の記録をバージョンごとに残すプロミスのMUSEが参考になる。

AI投資、プラットフォーム提携より現場適用の企業へ… 来年のデモデーが最初の検証

ディズニー・アクセラレーターの参加企業のうちAI企業は2024年が5社中3社(オーディオシェイク、イレブンラボ、プロメテアンAI)、今年は5社すべてだ。2024年の参加企業が音声・オーディオ・3D制作ツールだったのに対し、今年はロボットとシミュレーションが半数を超える。昨年参加のアニマージは1年でディズニー・ジュニアとの共同開発シリーズをYouTube公開とシーズン2制作につなげた。

今年5社の協業はまだ試験段階だ。駐車場ロボットや3Dメガネ整理ロボットがパークの常時運営に入るか、プロミスのハイブリッド撮影工程がディズニー作品の制作に使われるかは、来年のデモデーで確かめられる。ロボットAI企業の企業価値が売上より速く上がっている分、ディズニーのような現場顧客での適用事例はこれらの企業の次の資金調達でも根拠になる。