AI時代、コンテンツの価値は制作からIP所有へ

ハリウッドの映画祭で開かれた「Responsible AI」パネルで、コピーサイトは映画・検索向けに作られたAIコンテンツの41%に重大なIPリスクがあったと明らかにした。パネリストは、生成AIで制作コストが下がるほど、IPを誰が持つかが収益を左右すると指摘。韓国のIP保有者に対し、海外プラットフォームへの一度きりの売却ではなく、所有権を保ったまま継続的にライセンスする方式と、社内AIガイドラインの整備から始めるよう提言した。

AI時代、コンテンツの価値は制作からIP所有へ

グローバル・ステージ・ハリウッド映画祭2026 · Responsible AIセッション ③ パネル討論

コピーサイト「約15万件の点検で41%にIPリスク」… 配信プラットフォームへの一度きりの売却から「継続ライセンス」と自動補償への転換を提起

要約
10月3日、ハリウッドのTCLチャイニーズ・シアターで開かれた「Responsible AI」パネル。左からアニサ・アベイティア氏、アルテム・"トミー"・ペトロフ氏、サム・ウー氏、ヘイリー・ソン氏、ハン・ジョンフン氏。写真:K-EnterT
10月3日、ハリウッドのTCLチャイニーズ・シアターで開かれた「Responsible AI」パネル。左からアニサ・アベイティア氏、アルテム・"トミー"・ペトロフ氏、サム・ウー氏、ヘイリー・ソン氏、ハン・ジョンフン氏。写真:K-EnterTech Hub

映画や検索向けに作られたAIコンテンツの41%に、重大な知的財産(IP)リスクがあった。ハリウッドの映画祭の壇上で、こうした点検結果が公表された。コピーサイト(CopySight)のアルテム・"トミー"・ペトロフ(Artem "Tommy" Petrov)最高経営責任者(CEO)が10月3日、TCLチャイニーズ・シアターで開かれたグローバル・ステージ・ハリウッド映画祭(Global Stage Hollywood Film Festival)の「Responsible AI」パネルで示した数字だ。同氏は「複数のスタジオが使うプラットフォーム上で約15万件を点検した」と述べた。

ペトロフ氏は原因について「AIは人類がこれまでに生み出したあらゆるものを学習している」と説明した。コピーサイトはAIで生成した画像や動画が、既存の商標、キャラクター、著名人の肖像、画風と重複していないかを公開前に点検する企業で、7月に300万ドル(約4億5000万円)のシード資金を調達した。

「コンテンツには大きな価値があったが、今は制作よりIPの方が価値が高い」とペトロフ氏は語った。「制作は今やプロンプト一つで済む。参入障壁は下がった」。一方で、韓国コンテンツをグローバルプラットフォームに販売する仕組みは変わっていない。パネルでは、この二つの流れが重なる地点で韓国企業が何をすべきかが議論された。

ペトロフ氏のほか、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)イノベーション・フェローでAIガバナンスのコンサルティング会社フォーススペース・ソリューションズ(FourthSpace Solutions)を創業したアニサ・アベイティア(Anisa Abeytia)氏、ハローワークス(HelloWorks)のサム・ウー(Sam Woo)氏、ミレニアルワークス(Millennial Works)のヘイリー・ソン(Hailey Song、ソン・ユサン)代表が登壇した。司会はKエンターテックハブ(K-EnterTech Hub)のハン・ジョンフン(Jung Han)代表が務めた。

「Responsible AI」パネルの登壇者。左からアニサ・アベイティア氏、アルテム・"トミー"・ペトロフ氏、サム・ウー氏、ヘイリー・ソン氏、ハン・ジョンフン氏。写真:K-EnterTech Hub
「Responsible AI」パネルの登壇者。左からアニサ・アベイティア氏、アルテム・"トミー"・ペトロフ氏、サム・ウー氏、ヘイリー・ソン氏、ハン・ジョンフン氏。写真:K-EnterTech Hub

登壇企業… IP点検、AIガバナンス、AIショートドラマ、AIポップアップ

コピーサイトは、生成AIで作った画像や動画が既存の商標、キャラクター、著名人の肖像、画風と重複していないかを公開前に確認するIPクリアランス企業だ。共同創業者でCEOのペトロフ氏は、スナップ(Snap)、アップル(Apple)、メタ(Meta)出身者によるチームを率いる。パルス2.0(Pulse 2.0)の報道によると、同社は7月、マッカー・キャピタル(Mucker Capital)が主導し、タイス・VC(Taisu VC)、フリント・キャピタル(Flint Capital)、イエロー・ロックス(Yellow Rocks!)が参加したシードラウンドで300万ドル(約4億5000万円)を調達した。顧客にはAGBO、法律事務所アレントフォックス・シフ(ArentFox Schiff)、AI画像プラットフォームのオープンアート(OpenArt)などがある。同報道では1月以降の点検件数を8万7000件超としているが、ペトロフ氏は壇上で累計約15万件と述べた。

フォーススペース・ソリューションズは、アベイティア氏が創業したAIガバナンスのコンサルティング会社で、企業や機関のAIポリシー・ガイドライン策定を支援する。アベイティア氏はスタンフォード大学で修士号を取得し、UNHCRイノベーション・フェローとして、AIに関する国連の諮問協議やグローバル・デジタル・コンパクト(Global Digital Compact)の策定過程に参加したとされる。パネルでは各国の規制の違いと社内ガイドラインを中心に発言した。

ハローワークスは、ストーリー開発で8年、ショートドラマとYouTube動画の制作で4年の実績を持つ韓国のスタジオだ。自社チャンネルのフォロワーは合計155万人にのぼる。舞台ミュージカル『ドクター・ドリトル』のAI映像をすべて手がけ、一人称視点のVRドラマのパイロット版も制作した。現在は1959年の韓国SF漫画『正義の使者 ライパイ(Rayphie)』を、原作者とともにAIアニメーションとして復活させる作業を進めている。ウー氏は同社の米国拠点で海外事業を統括する。

ミレニアルワークスは2021年に京畿道高陽(コヤン)市で創業したAI体験企業だ。AIフォトブースのレンタルから始まり、AIキオスク、AIポップアップストア、AIテーマパークへと事業を広げた。ソウル・弘大(ホンデ)のAKプラザに自社運営の施設スペースブイ(SPACE:V)を構える。同社のIR資料によると、これまでに120以上のIP・ブランドと協業し、IPの契約更新率は92%に達する。2025年にはSMエンターテインメントからプレシリーズAの投資を受け、日本、台湾、シンガポールに拠点を置く。ソン代表は前のセッションでビジネスモデルを発表した。

ミレニアルワークスのヘイリー・ソン(ソン・ユサン)代表。写真:K-EnterTech Hub
ミレニアルワークスのヘイリー・ソン(ソン・ユサン)代表。写真:K-EnterTech Hub

司会を務めたKエンターテックハブは、エンターテインメントとテクノロジーの接点を取材・研究し、韓国のエンターテインメントテック企業の海外での発表の場を企画してきた。「Responsible AI」セッションも同社が構成し、ハローワークスとミレニアルワークスの発表に、海外の専門家を交えたパネル討論を組み合わせた。

資料:各社、パルス2.0、10月3日のセッションでの発言。グラフィック:K-EnterTech Hub
資料:各社、パルス2.0、10月3日のセッションでの発言。グラフィック:K-EnterTech Hub

日米をつなぐハリウッドの映画祭… 今年はAIセッションを2本編成

グローバル・ステージ・ハリウッドは、日米エンターテインメント業界の双方向の架け橋を強化する目的で設立された501(c)(3)の非営利映画祭だ。ワーナー・ブラザースの元幹部で、南カリフォルニア日米協会の会長を務めたダグラス・モンゴメリー(Douglas Montgomery)氏が創設した。在ロサンゼルス日本国総領事館によると、LA映画祭(LA Eiga Fest、2011〜2015年)、ジャパン・カッツ・ハリウッド(Japan Cuts Hollywood、2019年)、ジャパン・コネクツ・ハリウッド(Japan Connects Hollywood、2020年)といった日本映画イベントを前身とする。日本映画に加え、海外のインディペンデント長編、ドキュメンタリー、短編を上映し、映画製作者や配給会社向けの業界パネルやネットワーキングも開く。

今年の映画祭は10月2日、『90メートル』の上映と、同じ複合施設内のジャパン・ハウス・ロサンゼルス(JAPAN HOUSE Los Angeles)でのレセプションで開幕した。翌3日にはAIセッションが2本続いた。Kエンターテックハブが企画し、韓国企業2社が発表した「Responsible AI」は、日本映画を軸とする映画祭に韓国のエンターテインメントテックのセッションを持ち込んだ。

コピーサイトの点検結果(10月3日のセッションでの発言による)。グラフィック:K-EnterTech Hub
コピーサイトの点検結果(10月3日のセッションでの発言による)。グラフィック:K-EnterTech Hub

絵コンテと最終映像の2段階で点検… ハリウッドスタジオのIP確認手順

ペトロフ氏は、映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』を監督したジョー・ルッソ、アンソニー・ルッソ兄弟の制作会社AGBOがAI素材をどう点検しているかを紹介した。AGBOはキャラクターや背景アセットを社内承認する前にコピーサイトのコピースコア(CopyScore)にかけ、数十万点のスケッチやプリアートが既存IPやパブリックドメインに依拠していないかを確認し、最終映像でも改めて点検する。

コピーサイトのアルテム・"トミー"・ペトロフCEO。写真:K-EnterTech Hub
コピーサイトのアルテム・"トミー"・ペトロフCEO。写真:K-EnterTech Hub

「絵コンテの段階と最終映像の段階で点検して侵害がないことを確かめ、配信時には一部のコンテンツに不可視のウォーターマークを入れて追跡できるようにしている」とペトロフ氏は述べた。「対価を払わず、ライセンスも受けずに他人の作品に依拠することはしない。評判の問題でもある」

米国では「人間の相当な関与」が著作権の条件… 中国はAI生成物の著作権を認定

「現時点でAIが作ったコンテンツは著作権で保護されない」とアベイティア氏は言う。「人の手が入っていることを証明する必要があり、カリフォルニア州法ではその要件が非常に厳しい」。企業はそのコンテンツを誰が所有するのか、さらにそれを使って別のものを合法的に作れるのかも問わなければならないという。

ペトロフ氏は、コピーサイトが人間の相当な関与を立証することで、AIを活用した作品を米国で何度か登録してきたと述べた。同氏の説明では、EU AI法(AI Act)は厳格で執行力がある一方、欧州のAIイノベーションを抑えてきた。中国はすでにウォーターマークを義務づけ、AI生成物の著作者性を認めている。日本は緩やかだが、方針を見直しつつある。同氏は日本、中国、韓国、米国の条件を比較した資料を、希望する企業に提供すると申し出た。

資料:10月3日のパネルでの発言、韓国AI基本法。グラフィック:K-EnterTech Hub
資料:10月3日のパネルでの発言、韓国AI基本法。グラフィック:K-EnterTech Hub

パネルで語られた「人間の関与」の基準は、米国の判断で固まりつつある。米著作権局は2025年1月の報告書で、プロンプトだけでは利用者は著作者にならず、保護されるのは人が表現を選択・配列・修正した部分に限られるとした。3月にはワシントンD.C.巡回区連邦控訴裁判所がセイラー対パールマッター訴訟で、AIが単独で作った画像の登録を拒んだ同局の判断を支持した。

学習と出力をめぐる紛争も続いている。2025年6月には、ディズニーとユニバーサルが自社のキャラクターを無断で生成しているとして、画像生成AIのミッドジャーニー(Midjourney)を提訴した。2025年9月には、アンソロピック(Anthropic)が書籍の学習利用をめぐる作家らの集団訴訟で15億ドル(約2250億円)の和解に至った。ジブリをめぐる動きも同じ流れにある。2025年10月、スタジオジブリ、バンダイナムコ、スクウェア・エニックスなどが加盟するコンテンツ海外流通促進機構(CODA)は、オープンAI(OpenAI)に対し、動画生成モデルのソラ2(Sora 2)の学習に会員企業の作品を使わないよう正式に要請した。アベイティア氏が言及した「連携による対応」はこれを指す。表示義務では、中国が2025年9月1日からAI生成コンテンツへの明示的なラベルとメタデータの付与を義務づける規則を施行している。

資料:米著作権局、各社、報道。グラフィック:K-EnterTech Hub
資料:米著作権局、各社、報道。グラフィック:K-EnterTech Hub

合成データで学習すると3世代で劣化… 「人間の創作者に報いる仕組みを」

「人間が生み出した新しいものを学習しなければ、合成データによってモデルは劣化する。3世代目でそうなる」とペトロフ氏は述べた。「だからこそ、創作者がその仕事を続けられるようインセンティブを与える必要がある」。同氏は、ChatGPTの登場後に開発者向けQ&Aサイトのスタック・オーバーフローのトラフィックが70%減ったことを挙げ、次世代の学習データが失われつつある兆候だと指摘した。

資料:10月3日のパネルでの発言。グラフィック:K-EnterTech Hub
資料:10月3日のパネルでの発言。グラフィック:K-EnterTech Hub
10月3日、ハリウッドのTCLチャイニーズ・シアターで開かれた「Responsible AI」パネル。左からアニサ・アベイティア氏、アルテム・"トミー"・ペトロフ氏、サム・ウー氏、ヘイリー・ソン氏、ハン・ジョンフン氏。写真:K-EnterT
10月3日、ハリウッドのTCLチャイニーズ・シアターで開かれた「Responsible AI」パネル。左からアニサ・アベイティア氏、アルテム・"トミー"・ペトロフ氏、サム・ウー氏、ヘイリー・ソン氏、ハン・ジョンフン氏。写真:K-EnterTech Hub

かつて『ゴッドファーザー』のプロデューサーの制作チームで働いた経験を持つアベイティア氏は、これを「モデルドリフト」と呼び、モノカルチャー化への懸念を示した。「創造性はそれまでにあったものの上に積み重なる。新しいエンジニアはどうやって学ぶのか。何を学習させるのか」。ウー氏は、AIで音楽制作の時間と費用は減ったが、その分セッション・ミュージシャンの仕事が失われていると述べた。

規制は後追い… EU AI法を基準に、まず社内ガイドラインから

複数の国に進出するコンテンツ企業が最低限備えるべきAIポリシーを問われたアベイティア氏は、世界共通の法律は存在せず、米国の現政権は規制から距離を置いて各州に委ねていると説明した。そのうえで、執行力のあるEU AI法を基盤にすることを勧め、産業界も参加する広島AIプロセス・フレンズグループの取り組みには価値があると述べた。

UNHCRイノベーション・フェローのアニサ・アベイティア氏。写真:K-EnterTech Hub
UNHCRイノベーション・フェローのアニサ・アベイティア氏。写真:K-EnterTech Hub

社内ではポリシーよりガイドラインを重視するよう勧めた。「ポリシーを変えるのはずっと難しい。ガイドラインならはるかに扱いやすい」と同氏は言う。「まず自社のレッドラインがどこにあるかを決めることだ」。米国の医師の約80%がAIを使っていると答えながら、ガイドラインもポリシーも整っていなかったという調査も紹介した。ペトロフ氏は、自動車の発明からシートベルト規制まで60〜70年かかったと付け加えた。

アベイティア氏は前日、カリフォルニア州のAI作業部会に参加したという。AIコンテンツの透明性に関する同州の法案は意図はよいが、「悪魔は細部に宿る。法律をどう運用に落とし込むか。そこが大きな壁だ」と述べ、企業には自社が属する法域の弁護士に相談するよう助言した。

観客の関心はAIコンテンツより個人データ… ジブリは訴訟ではなく連携を選択

AIの使用を開示するとビジネスに不利か、それとも信頼につながるかを問われたアベイティア氏は「一般の人々はAI生成コンテンツを見ることにそれほど懸念を持っていないと思う。主に気にしているのは自分の情報がどう使われるかだ」と答えた。ジブリ風AI画像の流行を例に、スタジオジブリは訴訟に訴えず連携を組んだと述べ、それが日本が方針を見直している理由の一つかもしれないとした。小さな企業でもガイドラインを公開すれば、ガバナンスを考えていることを消費者に示せるという。

ミレニアルワークスのポップアップ「The Next Idol」でAI体験をする来場者。資料:ミレニアルワークス
ミレニアルワークスのポップアップ「The Next Idol」でAI体験をする来場者。資料:ミレニアルワークス

ペトロフ氏は、8体のキャラクターを作り4000万回の再生を集めた顧客の例を挙げた。デザイナーが退社後、そのキャラクターはAI生成物でパブリックドメインだと主張して同じキャラクターを使い始めたが、会社は対応に苦慮したという。「人々は自分が作ったものを所有していない」と同氏は述べた。

一度きりの販売から継続ライセンスへ… IP利用に自動で対価を払う試み

ペトロフ氏は、韓国、中国、日本はいずれも自国の文化遺産からIPを育てて海外に売ろうとしているが、「問題は売った時点で始まる。収益化はネットフリックス(Netflix)の側で起こる」と述べ、原産国には利益が還元されないと指摘した。「戦略は、海外に単にライセンスするだけでなく、原産国に収益が戻る、継続的で保護可能なライセンスの形へと変えるべきだ」

ハローワークスが原作者とともにAIでリメイクを進める『ライパイ』の原作表紙。資料:ハローワークス
ハローワークスが原作者とともにAIでリメイクを進める『ライパイ』の原作表紙。資料:ハローワークス

同氏は、プラットフォームが韓国のIPを基にAIアセットを生成するたびに対価を支払うべきであり、そのためには規制、政府、企業が足並みをそろえる必要があると述べた。コピーサイトは、商用レベルでIPがコンテンツ生成に使われた際にIP保有者へ自動的に対価を支払う仕組みについて、最初のサンドボックスを実施しており、翌週シンガポールで発表する予定だという。

資料:10月3日のパネルでの発言。グラフィック:K-EnterTech Hub
資料:10月3日のパネルでの発言。グラフィック:K-EnterTech Hub

ウー氏は「ネットフリックスはネットフリックスなので、こちらは彼らのルールに従うしかない」と述べ、『イカゲーム(Squid Game)』を韓国の制作会社にとっての教訓に挙げた。アベイティア氏は、ファンが作ったコンテンツが収益を生んだ場合にファンと収益を分け合うことを提案し、英国でソーシャルメディア上の個人データを本人が収益化できるようにする動きにも触れた。

ウー氏が挙げた『イカゲーム』は、この構造を数字で示している。ブルームバーグが2021年10月に報じたネットフリックスの内部資料では、シーズン1の制作費は2140万ドル(約32億円)、同社が見積もった「インパクト価値」は8億9110万ドル(約1337億円)で、費用の約42倍だった。ネットフリックスが権利を持つオリジナル契約では、この差額は制作会社に還元されない。ネットフリックスは2023年4月、4年間で25億ドル(約3750億円)を韓国コンテンツに投資すると表明した。

資料:ブルームバーグ。グラフィック:K-EnterTech Hub
資料:ブルームバーグ。グラフィック:K-EnterTech Hub
ハローワークス米国法人のサム・ウー・ディレクター。写真:K-EnterTech Hub
ハローワークス米国法人のサム・ウー・ディレクター。写真:K-EnterTech Hub

ネットフリックスの韓国進出から10年… 韓国の放送局・制作会社のIP保有が課題

ハン代表は、ネットフリックスが韓国に進出したのは2016年だと指摘した。この10年で韓国コンテンツは米国や世界の視聴者に知られるようになったが、韓国コンテンツのIPの多くをネットフリックスが握っていることは、韓国国内で議論が続いている。

司会を務めたKエンターテックハブのハン・ジョンフン代表。写真:K-EnterTech Hub
司会を務めたKエンターテックハブのハン・ジョンフン代表。写真:K-EnterTech Hub

韓国作品を購入したプラットフォームがそこからAI派生物を生成した場合に、原権利者に対価が支払われるかどうかを定めていない既存契約は多い。韓国の放送局や制作会社が海外販売契約でAI学習や派生物の権利を明記しなければ、販売の時点で収益化の主導権が買い手に移るという、パネルで語られた構図がAIでも繰り返されかねない。2026年1月22日に施行された韓国AI基本法(AI Basic Act)は、生成AIの出力物への表示など透明性義務が中心で、海外ライセンス契約におけるAI関連の権利は扱っていない。

展望… 次の論点はファン創作物と国境を越えるAIライセンス

ファンが作ったコンテンツは誰のものか。AIで生成したアセットを法域をまたいでどうライセンスするか。モデルの改善を支える人間の創作活動をどう維持するか。パネルはこれらの問いを今後の課題として残した。

パネリストは、企業がいま取れる手立てとして三つを挙げた。AGBOのように開発段階と最終段階の両方でIPを点検し記録を残すこと、見直しやすい社内AIガイドラインでレッドラインを定めること、海外契約では所有権を保持したまま継続ライセンスを交渉することだ。コピーサイトの自動補償の仕組みがスタジオの契約に盛り込まれ始めれば、韓国のIP保有者はグローバルプラットフォームとの交渉で新たな根拠を得ることになる。

資料:10月3日のパネルでの発言。グラフィック:K-EnterTech Hub
資料:10月3日のパネルでの発言。グラフィック:K-EnterTech Hub

※「」内は2026年10月3日のセッションでの発言(英語の発言を日本語に訳し、趣旨を損なわない範囲で整えた)。かぎ括弧のない文は発言の要約。筆者は本セッションの司会を務めた。

※円換算は1ドル=150円、1ウォン=0.107円を基準とした。

参考:CopySight Raises $3 Million(Pulse 2.0) · アニサ・アベイティア氏プロフィール(Influential Women) · 米著作権局 AI報告書 第2部 · セイラー対パールマッター訴訟(スキャデン) · ディズニー、ユニバーサル対ミッドジャーニー(The Fashion Law) · アンソロピックの和解(ブルームバーグ・ロー) · CODAのオープンAIへの要請(Yahoo News) · 中国のAI表示規則(Loeb & Loeb) · 『イカゲーム』の価値試算(Gulf News、ブルームバーグ引用) · ネットフリックスの25億ドル投資表明(CBS News)