ハドソンAI、東京TIFFCOMで「エージェンティック吹き替え」を公開

登場人物40人以上を区別しAIエージェントが品質をチェック… 日本のケーブル放送局と多言語吹き替えの事業化を協議… カンヌMIPCOMに続き米州・欧州・日本へ

ハドソンAI、東京TIFFCOMで「エージェンティック吹き替え」を公開

要約 韓国のAI吹き替え企業ハドソンAIが10月28〜30日に東京で開かれたTIFFCOM 2026に出展し、「エージェンティック吹き替え」を披露した。40人以上の登場人物を区別してキャラクターごとに吹き替え、AIエージェントが品質をチェックする技術だ。日本のケーブル放送局と多言語吹き替えの事業化を協議している。2週間前のカンヌMIPCOMに続き、米州・欧州・日本へと展開を広げる。

TIFFCOM 2026のハドソンAIブース
TIFFCOM 2026のハドソンAIブース(4-54)。エージェンティックAI吹き替え「ハドソン・スタジオ」、スポーツのリアルタイム実況「ハドソン・ライブ・フォー・スポーツ」、通訳・字幕「ハドソン・ライブ・フォー・イベント」を紹介した。写真=ハドソンAI

メディア特化型の音声AI企業ハドソンAI(Hudson AI、허드슨에이아이)は、10月28日から30日まで東京で開かれたコンテンツ見本市TIFFCOM 2026に出展し、「エージェンティック吹き替え(Agentic Dubbing)」技術を披露した。自社開発の「ローカライゼーション・エージェント(Localization Agent)」が吹き替えの工程と品質チェックを担う仕組みで、日本の放送局やコンテンツ制作・流通会社に多言語ローカライズのソリューションを紹介した。

今回の技術は、AI吹き替えの弱点とされてきた複数話者の処理、感情表現、翻訳品質の管理を狙ったものだ。映像の登場人物を40人以上区別し、キャラクターごとの特性や文脈を反映して吹き替えを生成する。AIエージェントが成果物を自動でチェックし、出演者の多いドラマ・バラエティ・アニメの多言語化の手間を減らす。ブースでは実際の映像で作った多言語吹き替えの成果物と制作の流れを公開した。

ハドソンAIは日本のケーブル放送局と多言語吹き替え技術の事業化を協議しており、日本コンテンツを海外に流通させる側の需要も見据えている。2週間前のフランス・カンヌのMIPCOMで欧州の流通専門家にラトビア語・ポーランド語の試験吹き替えを提案したのに続き、日本市場で放送局との接点を広げる日程となった。

登場人物40人以上を区別… AIエージェントがセリフごとに品質チェック

ハドソン・スタジオのエージェンティック吹き替え画面
TIFFCOMで披露したエージェンティック吹き替えを搭載した「ハドソン・スタジオ」。セリフ一覧にキャラクター名と感情タグ、「QA passed」の表示が付き、下のトラックには原音声(DX)、音楽・効果音(ME)、日本語吹き替え(DUB)が分かれている。資料=ハドソンAI

公開された作業画面は、エージェンティック吹き替えの流れを示している。セリフ一覧の各行に登場人物の名前と「playful(いたずらっぽく)」「sarcastic(皮肉っぽく)」といった感情タグが付き、日本語訳の横に「QA passed」の表示が並ぶ。画面上部には全111セリフのうちチェック通過35、保留75、欠落0が集計される。下のタイムラインは原音声、音楽・効果音、吹き替えのトラックに分かれ、笑い声のような非言語音までキャラクターごとに配置されている。

ハドソン・スタジオは音声分離、書き起こし、文脈を踏まえた翻訳、音声合成、口の動きの同期を一つの流れで処理し、80以上の言語に対応する。カンヌのMIPCOM前日のラウンドテーブルで、シン・ヒョンジン(Shin Hyun-jin、신현진)代表は、AIが吹き替えの演技と翻訳を自ら評価して直すべき箇所を示す機能を「開発中」と紹介していた。TIFFCOMではこの機能が「ローカライゼーション・エージェント」として製品に組み込まれた。カンヌでは欧州の参加者が、すすり泣きのような非言語音まで再現した吹き替えを「本当に高い品質」と評価していた。

米州はK-FAST、欧州はMIPCOM、日本はTIFFCOM… 地域ごとに異なる提案

ハドソンAIの今年の海外展開は、地域ごとに打ち出す商品が異なる。米州では政府支援のK-FASTチャンネルの吹き替えとスポーツ生中継、欧州では小規模言語の現地語版、日本では放送局向けの多言語吹き替えの事業化が中心だ。

地域舞台提案・実績言語現段階
米州グローバルK-FASTアライアンス(韓国科学技術情報通信部・KAIT)2026年のCJ ENM Kダンス旗艦チャンネルのコンソーシアムを主導。KBO中継のリアルタイムAI吹き替えを米国・ニュージーランド・オーストラリアに配信英語・スペイン語・ポルトガル語Kダンスチャンネル制作中(メキシコ・米国ヒスパニック向け)
欧州MIPCOM 2026(カンヌ、10月11〜15日)カンヌのラウンドテーブルでデモ、自社ブース(R8.C7)とK-FASTブースで商談。LGチャンネルズで『玉氏夫人伝』の英・西・仏語吹き替え版を欧州に公開ポーランド語・ラトビア語など10分の試験吹き替えを提案
日本TIFFCOM 2026(東京、10月28〜30日)ブース(4-54)でエージェンティック吹き替えをデモ。『ポロロ』日本語吹き替え版を制作日本語、日本コンテンツの海外向け言語日本のケーブル放送局と事業化を協議
韓国国内の放送局・プラットフォームCJ ENM・SBS・KOCOWAの海外版を制作、約3カ月でドラマ30本・500時間を吹き替え80以上に対応供給基盤

資料=ハドソンAI、K-EnterTech Hub取材、バイラインネットワーク、ニューシス

米州の実績はK-FASTから生まれた。アライアンス参加社が昨年、韓国コンテンツ約1200本を英語・スペイン語・ポルトガル語にAI吹き替えして作った20チャンネルは、サムスンTVプラスとLGチャンネルズで22カ国に配信され、今年4月末までに累計視聴者約1億人に達したと韓国の通信社ニューシスが7月に報じた。欧州については、カンヌのラウンドテーブルで、ポーランドの有料放送事業者約300社、ラトビアの約70社が国ごとに現地語版を求めているとの説明があった。LG電子と制作した『玉氏夫人伝』(The Tale of Lady Ok)のAI吹き替え版は、LGチャンネルズで欧州の視聴者に公開されている。

TIFFCOM 2025は参加者4610人・商談7700件… 今年はAI展示が増加

TIFFCOMは東京国際映画祭に併設されるコンテンツマーケットで、今年が23回目。経済産業省・総務省・ユニジャパンが主催し、今年の会場は東京都立産業貿易センター浜松町館だ。

項目内容
回次・会期第23回、2026年10月28〜30日(第39回東京国際映画祭10月26日〜11月4日の会期中)
会場東京都立産業貿易センター浜松町館
主催経済産業省・総務省・ユニジャパン
2025年の実績参加者4610人(海外1905人)、46カ国・地域、商談7700件以上
2026年の主なプログラムTokyo IP Market(原作の映像化・リメイク権)、第7回Tokyo Gap-Financing Market(TGFM)、AI・アニメ・国際共同製作など約20のカンファレンス

資料=TIFFCOM主催者発表、カートゥーン・ブリュー

主催者は今年、AI製品やデータ分析などテクノロジー関連の展示が増えると発表していた。基調講演「ストーリーテリングの未来をつくるテクノロジー」には『アベンジャーズ』シリーズで知られるAGBOのドミニク・ヒューズ(Dominic Hughes)最高科学責任者らが登壇したとインディアンテレビジョンが伝えた。原作の権利を扱うTokyo IP Marketには、KADOKAWA、東映、松竹、スクウェア・エニックスなど10社が参加した。マンガや小説の海外リメイク、アニメの輸出が増えるほど、日本語の原作を複数の言語に移す作業も増える。ハドソンAIが日本コンテンツの海外流通も視野に入れるのはそのためだ。

「すべての物語、すべての瞬間、すべての言語」… スタジオとライブの2本柱で日本へ

TIFFCOMのブースの壁には「Every Story. Every Moment. Every Language.(すべての物語、すべての瞬間、すべての言語)」の文字が掲げられた。製品は3つに分けて紹介された。エージェンティックAI吹き替えの「ハドソン・スタジオ」、スポーツのリアルタイム実況吹き替え「ハドソン・ライブ・フォー・スポーツ(Hudson Live for Sports)」、イベントの通訳・字幕「ハドソン・ライブ・フォー・イベント(Hudson Live for Events)」だ。同社はMIPCOMのショーケースで、自社集計としてAI吹き替え版の視聴時間が字幕版の2倍、AI吹き替えのサムネイル・タイトルのクリック率が3倍だと示していた。

日本はハドソンAIがすでに成果を出している市場でもある。『ポロロ』の日本語吹き替え版を制作し、マイナースポーツの中継をローカライズしたい日本の放送局と仕事をしているとシン代表はカンヌで明かした。同社はTIFFCOMへの出展を機に日本の放送・メディア業界との接点を広げ、現地の事業基盤を固める計画だ。ケーブル放送局との事業化協議と、カンヌで提案した欧州言語の試験吹き替えが次の日程となる。