NIPAのチョン・スジン本部長「地域産業のノウハウをグローバルビジネスに」

NIPAのチョン・スジン本部長は、特定産業への深い知見こそ地域AI企業の輸出の武器だとみる。「Regional AX Bridge@KOREA」は20社を診断、コンサルティング、バイヤーマッチングへと導き、地域のノウハウを海外での実証、提携、売上につなげることを目指す。

NIPAのチョン・スジン本部長「地域産業のノウハウをグローバルビジネスに」

Regional AX Bridge 2026 インタビュー

特化した領域で築いた競争力──企業診断とバイヤーマッチングを越え、実証と契約へ

韓国の地域AI企業のグローバル競争力は、汎用技術の性能だけでは決まらない。製造ライン、養殖場の水質、海事産業の労働環境まで、現場の課題をどれだけ深く理解し、解決してきたかが差を生む。情報通信産業振興院(NIPA)地域AX本部のチョン・スジン本部長が今年新たに立ち上げた「Regional AX Bridge@KOREA」の出発点はそこにある。地域企業の現場の専門性を海外の需要と結びつけ、技術の披露にとどまらず実証事業や契約に進むために必要な事業条件とパートナーを確保できるよう支援する構想だ。

注:AX(AI Transformation)は、人工知能を企業や産業全体に適用し、仕事の進め方や事業構造を変えることを指す。

チョン本部長が注目するのは、地域企業が長年取り組んできた産業の課題だ。製造、農業、海事、ドローン活用で蓄積した知識は、海外の顧客が必要とするソリューションにもなりうる。だが技術を持つことと、海外で売れる事業を築くことの間には、ターゲット市場、現地パートナー、実証環境という3つのハードルがある。

Regional AX Bridge@KOREAは、その溝を埋めるために設計された。海外見本市への参加支援に企業診断、事業化コンサルティング、市場適合性の検証を重ね、海外のバイヤーや需要機関との面談を、NIPAの海外拠点によるフォローアップ支援につなげる。要するに、支援の単位を「イベントへの参加」から「企業の事業化プロセス全体」へと広げたのだ。

NIPA地域AX本部のチョン・スジン本部長。写真=K-EnterTech Hub

首都圏の後追いではなく、地域産業から出発する

チョン本部長は、AXが政策のキーワードになるずっと前から、ソウルと地方のデジタル転換の格差を見てきたという。ソフトウェアやデジタル人材はソウルと首都圏に集中し、地方には技術を内製化する力も、必要なツールを見つけて導入する明確な経路も不足してきた。

「ITやソフトウェアでは、先に進む地域があって、地方は後からついていった。だがAIはキーワードとして爆発的に広がった。地方がすぐに歩調を合わせられるよう、より早く基盤を築く戦略が必要だと感じた」

NIPAの地域AX本部は、地方自治体や地域の機関と連携してAX普及政策を設計し、地域産業のニーズとAI・デジタル技術を結びつける。自治体と新規事業を企画するチーム、デジタル革新拠点のAX革新拠点への転換と光州のAI研究団地を担当する拠点チーム、地域の機関と組んで企業の売上創出を支援する普及チームで構成される。

チョン本部長は、首都圏をそのまま模倣するだけでは足りないと考える。各地域の既存の産業基盤と現場の課題を中心に据えるべきだという。光州のAI、忠清南道のディスプレー・半導体、釜山の海事、蔚山の造船というように地域の産業クラスターを先に示すことは、海外のパートナーが韓国企業を理解する助けにもなるという。

「海外で企業を『韓国のAI企業』とだけ紹介するのは、あまりに漠然としている。どの地域にどんな産業があり、その企業がそのバリューチェーンでどんな役割を担っているのかを説明しなければならない。そうして初めて、相手は目の前のものを信頼し始める」

8月28日にソウル・江南で開かれたRegional AX Bridge@KOREAの参加企業説明会。写真=K-EnterTech Hub

商談の後に必要な条件を見つける

NIPAは5〜6年ほど前から、地域企業の海外見本市への参加を支援してきた。似たような輸出支援事業が増えるなか、企業を会場に連れて行くだけでは次の段階の成果を出すには不十分だと判断した。

チョン本部長が見た限界は、見本市の後にあった。企業は技術を披露できても、バイヤーを見つけたり実証事業を設計したりするために必要な条件は企業ごとに違った。そこで、ターゲット市場と相手をより具体的に定め、専門家とともに企業の弱点を補えるよう事業を組み直した。

「地域企業がグローバルな競争力を持つだけでなく、グローバルな視野とビジネスマインドを身につけられるよう支援したかった。必要ならほかの事業ともつながり、ビジネスを広げられるようにすべきだ」

事業は企業ごとの診断から始まる。海外進出を希望する企業が応募すると、NIPAは企業の現状、技術、ターゲット市場を確認し、事業化コンサルティングと市場調査を通じて適切なパートナー候補を探す。それがバイヤーや需要機関との面談、展示、商談につながる。日程は、夏の事前診断とコンサルティングから、9月の市場適合性の検証、10月のバイヤー面談へと進む(下表参照)。

技術開発の後のボトルネックは事業化だ。企業は顧客の要求と自社が用意した製品の差を縮めなければ、次の取引には進めない。チョン本部長は、その差を企業ごとに特定する助言支援の役割を強調した。

「良いアイデアを持ち、技術開発まで進んだ企業は多い。だが事業化や海外市場への進出でつまずくことが多い。大事なのは、誰が何を改善すべきかを指摘し、適切な専門家と組ませることだ」

NIPAは内部の専門家プールと外部のネットワークを活用して、企業に合わせた助言とマッチングを提供する。内部のプールで答えられない質問は、NIPAが探してマッチングした外部の専門家につなぐ。ただしチョン本部長は、専門家プールを拡大する必要があると認める。企業の業種や海外での課題が多様になるほど、画一的なコンサルティングでは限界があるからだ。

事業の段階・日程・支援内容

段階予定日程主な内容
募集・選定7月3日/7月13日応募締め切り/選定通知
事前診断7月24日〜8月3日企業別の診断20回
事業化コンサルティング8月25日〜9月29日企業別の事業化支援(約5週間)
市場適合性の検証9月ターゲット市場の適合性とパートナー候補を確認
本イベント10月13〜14日展示、バイヤー商談、契約・MOU締結式(予定)
フォローアップイベント後海外拠点・事業との連携、国境を越えたPoC支援を準備中

出典=2026 Regional AX Bridge@KOREA 事業計画(NIPA)

地域に開き、事業能力で選ぶ

参加企業20社の選定では、地域のバランスより能力を優先した。事業の目的は地域企業の支援だが、地域ごとに枠を均等に割り振れば、実際に海外取引をまとめられる企業を選びにくくなるからだ。

「地域への機会は開いておかなければならない。だが対外的にビジネスを行い、最終段階まで進む段階では、実力で厳格に判断すべきだと考えた」

参加企業のパンフレットによると、大邱・慶尚北道が7社、光州・全羅南道が4社、江原道が4社、忠清圏・世宗が3社、釜山と全羅北道が各1社だ。大邱だけで5社を占める。この顔ぶれは、地域の均等な割り当てではなく海外での事業能力を選定基準にしたというチョン本部長の説明を裏付けている。

初年度の事業とあって、当初は戸惑いもあった。企業は、既存の見本市や商談の支援とどう違うのか、実際にどんなフォローアップ支援を受けられるのかを知りたがった。チョン本部長は「最初は、本当に役に立つのか確信が持てない企業もあった。だが何度かの説明会とプログラムを経て、今年は有望な企業が集まったと思う」と話す。

10月のイベントは商談だけでなく、カンファレンスとネットワーキングの場としても設計されている。地域企業や自治体の担当者が、AI転換、産業の活用事例、グローバル市場の動向を一度に学べるようにした。チョン本部長は、韓国のビジネス文化ではネットワーキングがまだ硬直的だとも指摘した。

「欧州や米国では、似た業界の人や互いに必要なものを持つ人が自然に出会う。韓国ではそうした交流が比較的難しい。一朝一夕には変わらないが、企業が関係を築き、学べるよう、こうした機会を作り続けなければならない」

成果はフォローアップの事業で測る

チョン本部長は、商談やMOUの件数だけで成功を判断しない。技術協約や実証事業がどう進み、取引が売上につながるかを追跡するつもりだ。企業の販売プロセスの具体的な内容は、まだ明らかにできないという。

「中間点検で、いくつかの企業がそうした段階に進んでいると聞いている。ただ営業秘密に関わるので、いまは詳細を明かしにくい。年末ごろにはいくつかの事例を紹介できればと思う」

海外のバイヤーや需要機関を韓国に招く「@KOREA」の形式も、フォローアップの事業を念頭に選んだ。韓国企業が技術と事業環境を現地で披露でき、有望な企業をNIPAの海外拠点につないで次の面談に進められる。

第1回の「2026 Regional AX Bridge@KOREA」は10月13〜14日、ソウルのCOEX THE PLATZ 2階展示ホールで開かれる。地域のAI企業20社が技術とサービスを披露して商談を行い、初日には契約・業務協約(MOU)の締結式も予定されている。参加登録と詳しい日程はOnoffmixのイベントページで確認できる。

NIPAはシリコンバレー、シンガポール、ハノイ、ホーチミン、アラブ首長国連邦、インドに海外拠点を置き、2024年にはニューヨークにデスクを追加した。チョン本部長は、Regional AX Bridgeが一回限りのイベントではなく、企業をNIPAのグローバルネットワークにつなぐ入り口になることを期待している。

「海外進出を目指す企業のために、海外拠点とつながり、良いパートナーに出会える機会をもっと作る。一回限りのイベントであってはならず、ここで可能性を示した企業が次の段階に進めるようにすべきだ」

AIにおける韓国の国際的な評判が、個々の企業の契約を保証するわけではない。チョン本部長は、業種、技術ニーズ、協力条件がかみ合う相手を見つけることを強調した。つまり企業は、地域で実証した技術が海外でどんな課題を解決できるのかを説明できなければならない。

「結局は、際立った何かが必要だ。現地パートナーを見つけることは重要で、最良の選択肢は、その地域の産業の優先課題、自社の技術、協力の条件がぴたりと合う相手を見つけることだ」

ドローン、海事、農業など、ある国や地域が政策の優先課題として育てている産業と韓国企業の強みが合致すれば、現地の投資、市場の知見、実証の機会を同時に確保できるため、その市場に参入できる可能性が高まるという。

出典=Regional AX Bridge@KOREA 出展企業プロフィール

次の段階:現場での実証とデータ

NIPA地域AX本部は、7つの地域拠点とその企業の国境を越えた概念実証(PoC)の支援も準備している。PoCは、技術が実際の環境で機能するかを確かめる小規模な試験だ。既存のネットワークを通じた実証に加え、適切な海外企業や需要機関を新たにマッチングし、小規模なプロジェクトに資金を出す計画だ。規模、対象、時期はまだ決まっていない。

チョン本部長は、養殖水槽の水質を管理するIoT技術を持つ韓国企業が、東南アジアの見本市で現地の大手水産会社と出会い、実証にまで進んだ例を挙げた。当時は出会いをつないだ時点で支援が終わったが、今後は実証の段階まで企業を後押しすれば、現地市場に参入できる可能性が高まると考えている。

「つなぐだけで終わるのではなく、企業が現場で実際に技術を検証できるよう支援することが重要だ。実証の経験こそが、次の契約と現地でのビジネスの可能性を高める」

本部の次の重点であるフィジカルAIも、地域産業に直結している。フィジカルAIとは、ロボットや機器を認識・制御して現実世界の作業を行うAIを指す。チョン本部長によると、慶尚南道と全羅北道を中心に、製造工程向けのフィジカルAIを開発・実証する大規模な研究開発事業が今年本格的に始まった。

科学技術情報通信部は9月16日、ノボテル・アンバサダー・ソウルで全羅北道・慶尚南道フィジカルAI研究開発事業の着手報告会を開き、2026〜2030年の5カ年ロードマップを公開した。事業規模は全羅北道7,368億ウォン、慶尚南道6,763億ウォン、計1兆4,131億ウォンだ。全羅北道は異なるロボットや機器を連携させるソフトウェアプラットフォームと、完州のフィジカルAI実証団地を整備する。慶尚南道は製造工程の精密制御と、人とAIが協働する大規模行動モデル(LAM)に重点を置く。LAMは言語だけでなく、物理的な動作と作業の実行を学習するAIモデルだ。慶尚南道の事業にはソウル大学、慶南大学、LG AI研究院、ハンファオーシャンなどが参加している。

10月のイベントに参加する地域AI企業20社。出典=Regional AX Bridge@KOREA 出展企業プロフィール

全羅北道・慶尚南道フィジカルAI研究開発事業

地域予算重点
全羅北道7,368億ウォン異種ロボット・機器の協働ソフトウェアプラットフォーム、完州の実証団地
慶尚南道6,763億ウォン製造工程の精密制御、人とAIの協働型大規模行動モデル(LAM)
合計1兆4,131億ウォン2026〜2030年の5カ年事業

出典=科学技術情報通信部の着手報告会に関する報道をもとに作成

フィジカルAIでも、競争力は結局現場に戻ってくる。チョン本部長は「フィジカルAIは結局、現場のデータだ」と話す。来年は、フィジカルAIに特化したデータを集め、品質を検証し、モデル開発と実際の導入につなげる体制づくりが重要になるとみている。

チョン本部長が説明したRegional AX Bridgeの事業構造。図=インタビューをもとにK-EnterTech Hubが作成

チョン本部長は地域AX本部の2027年予算が増えると見込むが、支援は企業の実際のニーズに届かなければならないと強調した。

「予算をばらまけば企業が自動的に育つわけではない。地域の機関と組んで企業が必要としているものを見つけ、それを売上と事業に変えること。それが結局、普及ということだ」

Regional AX Bridgeはこれから、海外パートナーとの最初の出会いを企業の次の事業につなげられるかが試される。産業の経験はすでに地域企業の中にある。NIPAの役割は、その経験を必要とするバイヤーを見つけ、現地での実証と契約の条件をともに整えることだ。チョン本部長の言う特化領域の競争力は、その過程で売上と提携という具体的な形をとる。