[コ・サムソクのインサイト]AI時代、K-POPの未来は「シェア・リアリティ」にある

AI時代のK-POPの競争力は、コンテンツ制作よりも、物理空間とデジタル空間を越えて世界の観客をリアルタイムでつなぐ「共有された現実」の体験をいかに生み出すかにかかっている。

[コ・サムソクのインサイト]AI時代、K-POPの未来は「シェア・リアリティ」にある

コ・サムソク博士

東国大学 先端融合大学 碩座教授

大統領直属 国家人工知能戦略委員会 委員

この30年余り、K-POPは韓国が生み出したコンテンツの中で最も影響力のあるグローバル文化ブランドに成長した。出発点はごく普通の音楽だったが、いまやK-POPは、映像と公演、ファンダムとプラットフォーム、コミュニティと最先端技術が一体となり、世界中の観客が消費し参加する強力な「文化エコシステム」を築いている。K-POPはコンテンツ分野を代表する輸出産業であると同時に、国家ブランドの中核的な資産となった。

4月下旬にソウルで開かれたWIS2026の「Kエンターテック・サミット」で基調講演を行うコ・サムソク碩座教授

AIの到来で、本当の問いが変わる

しかしいま、K-POPは再び大きな転換点を迎えている。その中心にあるのが人工知能(AI)だ。生成AIはすでに数えきれないほどの楽曲を生み出している。映像を自ら作り、振り付けを考え、バーチャルアイドルのような仮想アーティストまで誕生させている。かつては大手芸能事務所と専用の制作体制が必要だったことが、いまや個人のクリエイターにもできる。「コンテンツ制作の民主化」が始まったと言われるゆえんだ。この変化は前向きなものだが、同時にK-POP産業に根本的な問いを突きつけている。

AIが作曲し、誰もがコンテンツを作れる時代に、K-POPは何を根拠に世界の観客から選ばれ続けるのか。どうすれば持続可能でいられるのか。より良い音楽か、より華やかな映像か、より強力なAI技術か。もちろん、こうした要素は今後もK-POPの競争力を支えるうえで重要であり続けるだろう。だがそれらは持続可能性の必要条件であって、十分条件ではない。これからの競争は、コンテンツ制作をめぐる競争ではなく、コンテンツを享受する人々の「体験」をめぐる競争になる可能性が高い。そしてその競争の中心にあるのが「シェア・リアリティ(Share Reality)」だ。

「K-POPのレジェンド」と呼ばれる作曲家・プロデューサーのキム・ヒョンソク氏とともに、英オックスフォード大学と連携してK-POP・Kカルチャーに基づく教育プログラムを開発する

「シェア・リアリティ」とは何か

シェア・リアリティは、韓国ではまだなじみの薄い概念だ。簡単に言えば、多くの人が別々の場所にいながら、まるで同じ場所にいるかのように一緒に体験する構造や状況を指す。一人でVRヘッドセットをかぶって没入するような体験ではない。

むしろ、コンサート会場や映画館、拡張現実(XR)空間、さらには都市空間とリアルタイムのネットワークを通じて、大勢の人が一つの現実を同時に体験する形だ。ここで重要なのは技術ではない。同じ瞬間を一緒に感じ、楽しむという観客の「感覚」である。振り返れば、韓国人はこうした体験に慣れ親しんでいる。K-POPコンサートでの大合唱や、ワールドカップの街頭応援がそうだ。同じ公演や試合を見ながらファンがリアルタイムで感情を共有することは、常に大衆文化の核心にあった。AI技術はいま、そうした体験をより大きく、より強力に広げている。

東京とロサンゼルスが示す道

日本や米国といったコンテンツ先進国は、韓国に先んじて「技術による体験の拡張」を新しい産業に育てている。アミューズやソニー・ミュージックエンタテインメントなどが出資するライブ・ビューイング・ジャパンは、国内の大型コンサート、アニメイベント、演劇、ミュージカル、スポーツを、衛星中継やインターネットで全国の映画館やライブハウスにリアルタイムで届けることを専門とする企業だ。最近は、ソウルで開かれたK-POPコンサートを「ライブ・ビューイング」で東京の観客に同時中継した。

このビジネスモデルの核心は、コンサートや試合を単に中継することではない。本当の核心は「会場を拡張する」戦略にある。東京で開かれるコンサートを、ソウル、ロサンゼルス、パリ、シンガポールのファンが同じ瞬間に見る。

観客は画面を眺めるだけでなく、一緒に声援を送り、叫び、一つの体験を共有する。公演や試合はある特定の都市で行われるが、体験そのものは多くの都市で同時に生まれる。ここでは収益はチケット販売にとどまらない。グッズ、メンバーシップ、コミュニティ、データ、繰り返しの消費がすべてつながっていく。この段階で、公演産業は体験産業へと進化する。

米国はさらに一歩先を行く。いま世界のエンターテインメント市場で最も注目を集める企業の一つがCosm(コズム)だ。Cosmは自らを公演会社ではなく「シェア・リアリティ・カンパニー」と定義している。同社が建設した大型ドーム会場では、スポーツ、映画、コンサートがまるで現地にいるかのように展開される。スタジアムに足を運ばなくても、実際の会場と変わらない奥行きと没入感を味わえる。これが重要な理由は明らかだ。

Cosmの没入型会場

Cosmはコンテンツを売るだけでなく、現実を共有する空間そのものと、そこから生まれる体験を売っている。いまNetflixが家庭内の画面を支配しているとすれば、これから開かれるのは、都市やコンサート会場そのものがプラットフォームであり画面にもなる時代だ。AI、空間技術、コンテンツが結びついて新たな「体験経済」を生み出す時代に入りつつある。その中心にあるのがシェア・リアリティである。

韓国の強みと、埋めるべき差

こうした状況の中で、韓国はどうか。韓国は世界のどの国にも劣らない好条件を備えている。世界最高水準のK-POP IPを持ち、強力なグローバルファンダムを築いてきた。シェア・リアリティに欠かせない高速ネットワークなどのインフラがあり、AIやXRの技術水準も高い。実はK-POPそのものが、世界で最も成功したシェア・リアリティの初期形態の一つでもある。

無数のファンが一つの空間に集まり、一緒にペンライトを振り、同じ歌を合唱するコンサート文化は、すでに集団的な体験経済を体現している。問題は、それが個々の芸能事務所を中心とするファンダム経済の枠を越え、技術と空間を融合した産業戦略にまでまだ広がっていないことだ。だからこそK-POPには新たな産業戦略とグローバル戦略が必要なのである。

淑明女子大学のムン・シヨン総長とともに、昨年3月、K-POPプログラムを中心とする韓国初の「韓流国際カレッジ」を設立した

政府と産業界がなすべきこと

まず政府の役割が重要だ。文化体育観光部は、公演やコンテンツへの事業単位の支援を越え、K-POPとAI、XR、空間体験をつなぐ国家レベルの「シェア・リアリティ・プロジェクト」を検討する必要がある。コンサート会場や劇場の一部を未来志向の体験空間に転換し、公演権、放送権、AI生成コンテンツに関する制度も見直すべきだ。

コンテンツ政策とAI政策は別々に扱うのではなく、一つの「エンターテック」戦略として統合すべきである。特にソウル、仁川、京畿道城南などの地域を中心にグローバルなエンターテック・ハブ戦略を進めれば、韓国はシェア・リアリティ分野の先導国家に十分なりうる。文化体育観光部が最近、文化AI政策を専門に担う新組織を立ち上げ、「AI時代の文化強国実現戦略」づくりを進めていることは前向きに評価できる。

民間の芸能事務所の役割も変わらなければならない。韓国の芸能事務所は、もはやアーティストの育成と公演制作にとどまっていられない。これからは「グローバルな体験プラットフォーム企業」へとさらに飛躍すべきだ。ソウルで開かれたコンサートを東京、シンガポール、ニューヨーク、パリでリアルタイムに共有し、同時にAIで観客の体験を飛躍的に広げる仕組みを整える必要がある。そしてロンドンの「ABBA Voyage」のように、アーティスト本人の公演が終わった後もファンの体験が続くようにすべきだ。それが「ネクスト韓流」時代のK-POPの新たな成長モデルとなる。

この画像はAI(生成AI、nano-banana-proモデル)で生成したもので、実際の写真ではない。

共有された空間へ

この30年、韓流はコンテンツを輸出してきた。Kドラマ、K-POPを通じて、韓国は自らを世界に知らしめた。その過程で「文化強国」になれるという新たな可能性も確かめた。しかし次の30年は違うものでなければならない。AI時代の勝者は、最も多くのコンテンツを作る国ではないだろう。最も多くの人に同じ瞬間を一緒に体験させる国である可能性が高い。

K-POPの舞台は、いまや特定のコンサート会場やテレビ画面を越えていかなければならない。人々がともに存在し、ともに感動し、ともに記憶する「共有された空間(Shared Spaces)」へと進むべきだ。そうした空間を最初に築き、世界へと広げる国こそが、次の時代を率いる真の文化強国となるだろう。