TVチャンネルは加入者15%を失い、会場は利益90%増…スフィア第3四半期が放送局に送ったシグナル

スフィア・エンターテインメントの第3四半期決算は、放送と会場で明暗が分かれた。MSGネットワークスは加入者が15.5%減り売上高が15%減少、のれん1億7760万ドルを減損処理した。スフィア部門は売上高が14%増の1億9890万ドル、調整後営業利益が90%増えた。『オズの魔法使い』241回上映が成長をけん引し、ラッシュは2027年5月の公演を発表。IMAXも過去最高の四半期決算を出した。韓国の放送局には映像IPの再加工、K-POPレジデンシー、外壁広告の重要性を示している。

TVチャンネルは加入者15%を失い、会場は利益90%増…スフィア第3四半期が放送局に送ったシグナル

スフィア部門の売上高は14%増の1億9890万ドル、調整後営業利益は90%増。一方、地域スポーツチャンネルMSGネットワークスは売上高15%減、のれん1億7760万ドルを減損…『オズの魔法使い』241回上映・ラッシュの公演決定、IMAXも過去最高の四半期

『オズの魔法使い・アット・スフィア』の公式グッズを着た来場者の後ろで、スフィアの外壁「エクソスフィア」が輝いている。写真=スフィア・エンターテインメント。 サムネイル:Matt Walter/ウィキメディア・コモンズ(CC BY 2.0)

ラスベガスの球体型会場スフィア(Sphere)を運営するスフィア・エンターテインメント(Sphere Entertainment)は5日(現地時間)、第3四半期決算を発表した。一つの会社の中で、放送と会場の成績が正反対に分かれた。地域スポーツチャンネル「MSGネットワークス(MSG Networks)」は有料放送の加入者が約15.5%減って売上高が15%減少し、のれん1億7760万ドル(約281億円)を減損処理した。一方、スフィア部門の売上高は1億9890万ドル(約314億円)と前年同期比14%増え、調整後営業利益は3240万ドル(約51億円)と90%増加した。

売上高を押し上げたのは、スフィアが自ら制作した没入型作品『オズの魔法使い・アット・スフィア(The Wizard of Oz at Sphere)』だ。同作は第3四半期に241回上映された。前年同期に3作品を合わせた上映回数220回を上回る。同社によると、2025年8月の開幕以来、チケット販売は400万枚を超え、販売額は5億ドル(約790億円)を突破した。10月初めには上映1000回を超えた。放送局が蓄積してきた映像ライブラリーを、放送以外の形で再び売れることを示す事例だ。

同じ日、カナダのロックバンド、ラッシュ(Rush)が2027年5月のスフィア公演5回を発表した。公演名は「エレベート・フロム・ザ・ノーム(Elevate From the Norm)」で、日程は5月21・23・26・28・30日。7月から報じられてきた交渉が4カ月で正式な日程となった。

IMAXも同日、創業以来最高の四半期決算を発表した。売上高は64%増の1億7500万ドル(約277億円)。両社の第3四半期の成長は、いずれも映画館や会場でしか味わえない大画面体験から生まれた。IMAXのリッチ・ゲルフォンド(Rich Gelfond)CEOは決算発表で、AIが日常に広がるほど希少なイベントや体験の価値が高まると説明した。

スフィア部門の売上高14%増・調整後営業利益90%増…9カ月累計の利益は前年の2.7倍

スフィア部門の第3四半期の増収分2477万ドルは三つの部門から生まれた。自社の没入型作品の売上である「スフィア・エクスペリエンス(The Sphere Experience)」が1310万ドル増えた。スポンサーシップ、外壁広告、スイート販売の収入は620万ドル増え、その大半は外壁「エクソスフィア(Exosphere)」の広告によるものだった。公演収入もレジデンシー公演が3回増えたことで610万ドル増加した。

スフィアの外壁「エクソスフィア」に映し出されたラッシュ(Rush)のロゴ。写真=スフィア

1〜9月の累計では伸びがさらに大きい。スフィア部門の9カ月売上高は36%増の6億9120万ドル(約1093億円)、調整後営業利益は166%増の1億4660万ドル(約232億円)で、前年の2.7倍となった。減価償却費8150万ドルを計上しても、同部門の営業損失は8440万ドルから6700万ドルに縮小した。

スフィア部門の四半期売上高と調整後営業利益(単位:百万ドル)。出所=スフィア・エンターテインメント四半期開示

全社の第3四半期売上高は4%増の2億7430万ドル(約434億円)だった。連結営業損失は2億4060万ドルと、前年同期の1億6310万ドルから47%拡大した。現金および現金同等物は5億2730万ドル。ジェームズ・ドーラン(James L. Dolan)会長兼CEOは「スフィア部門は今年、大幅な成長を実現する軌道に乗っている」と述べた。

MSGネットワークス売上高15%減・のれん2年連続減損…一つの会社で分かれた放送と会場

連結損失を広げたのは放送部門だ。ニューヨーク圏のプロスポーツを中継する地域スポーツチャンネル、MSGネットワークスの第3四半期売上高は15%減の7540万ドル(約119億円)だった。有料放送事業者から受け取る配信収入が1280万ドル減り、同社はその原因に加入者全体の約15.5%減を挙げた。同部門の調整後営業利益は1930万ドルから680万ドルと、3分の1程度に縮んだ。

同社はMSGネットワークスののれん1億7760万ドルを減損処理した。前年同期にも6540万ドルを減損しており、2年連続となる。のれんの減損とは、買収・合併時に計上した事業価値を将来の収益ではもはや裏付けにくいと会計上認める手続きだ。この費用の計上で、MSGネットワークスの営業損失は1億7360万ドルに膨らんだ。視聴世帯数に収益が縛られたチャンネルは縮み、観客が自ら足を運んでチケットを買う会場は伸びる。その流れが一つの会社の決算表の中に表れた。

『オズの魔法使い』241回・累計400万枚…映画IPを会場専用作品に

『オズの魔法使い・アット・スフィア』は、1939年の映画をスフィア内部の16K LEDスクリーンに合わせて作り直した作品だ。スフィアはグーグル(Google)と協力し、生成AIで原作の映像を球体スクリーンの大きさまで広げ、風などの4D演出を加えた。9月末には4D演出を強化した新バージョンを公開した。

同作は1日に複数回上映される。アーティストの日程に左右されるレジデンシー公演と違い、公演のない日でも客席を埋められる。第3四半期の241回は、92日間で1日平均約2.6回にあたる。スフィアは次の自社作品として『ロッキー・ホラー・ピクチャー・ショー・アット・スフィア(The Rocky Horror Picture Show at Sphere)』を制作中で、2027年3月末までの公開を予定している。

ラスベガス・スフィアの外壁「エクソスフィア」。直径157メートルの球体の外壁全体がLEDスクリーンになっている。写真=Y2kcrazyjoker4/ウィキメディア・コモンズ(CC BY 4.0)

外壁広告も収益源として定着した。スフィアは第3四半期のスポンサー・広告収入の増加分の大半がエクソスフィア広告によるものだとし、配車サービスのリフト(Lyft)と複数年のスポンサー契約を新たに結んだ。

メタリカ24公演・ラッシュ5公演…レジデンシーが日程を埋める

コンサートではレジデンシー公演が日程を埋めている。メタリカ(Metallica)は10月にレジデンシーを始め、2027年3月までに24公演を行う。バックストリート・ボーイズ(Backstreet Boys)は最大63公演、イーグルス(Eagles)は最大74公演に延長した。オプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)とジョン・メイヤー(John Mayer)は2027年のレジデンシーを発表している。

ラッシュのスフィア公演は、結成50周年の再結成ツアー「フィフティ・サムシング(Fifty Something)」の延長だ。同ツアーは北米、南米、英国、欧州でチケット100万枚以上を販売し、2027年4月10日のヘルシンキ公演で海外日程を終える。スフィアでは「2112」とアルバム『ムービング・ピクチャーズ(Moving Pictures)』の全曲を演奏するとジャムベースが伝えた。

ボーカル兼ベースのゲディー・リー(Geddy Lee)は、スフィアを初めて知ったとき、ラッシュがもうツアーをしていないことを残念に思ったと語った。会場がバンドの公演の視覚的な作り方に合わせたように見えたからだと、地元テレビ局KLASが5日に報じた。アーティスト先行販売は11日、一般販売は13日に始まる。ファン向けプラットフォームのスーパーファン(Superfan)と組み、フォンテンブロー・ラスベガス(Fontainebleau Las Vegas)を拠点にしたVIP・旅行パッケージも販売するとビルボードが報じた。

レジデンシー公演と『オズの魔法使い』の上映は出発点が違うが、観客が財布を開く理由は同じだ。家のテレビやスマートフォンでは得られない画面の大きさと没入感である。放送局から見れば、同じ映像でも居間の画面を離れて大画面に移ると、より高い値が付くということだ。この需要はラスベガスの一つの会場にとどまらなかった。同じ日に決算を発表したIMAXは、世界の映画館で同じ流れを数字で示した。

IMAX売上高64%増・興行収入7億1200万ドル…大画面体験に需要集中

IMAXの第3四半期の世界興行収入は7億1200万ドル(約1126億円)と四半期の過去最高を記録した。このうち5億3800万ドルは、全編をIMAXフィルムカメラで撮影したクリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)監督の『オデッセイ(The Odyssey)』によるものだ。調整後EBITDAは1億2100万ドルで、利益率は69%に達した。今年に入ってからのIMAXシステムの新規契約も100件を超えた。

項目スフィア(スフィア部門)IMAX
第3四半期売上高1億9890万ドル(14%増)1億7500万ドル(64%増)
第3四半期の利益指標調整後営業利益3240万ドル(90%増)調整後EBITDA 1億2100万ドル(利益率69%)
成長要因自社作品『オズの魔法使い』241回『オデッセイ』興行収入5億3800万ドル
収益構造会場を直接運営、チケット・外壁広告・スイート世界の映画館からの興行収入配分・システム販売
今後の予定『ロッキー・ホラー』(2027年3月)、ラッシュ(5月)『デューン:パート3』(12月)

両社の収益構造は異なる。IMAXは世界の映画館に上映システムを設置し、興行収入の配分を受け取る。スフィアは一つの会場を自ら運営し、チケット、広告、スイートの収入をすべて得る。共通点は、同じ物語でもより大きな画面と深い没入感のために高い料金を払う観客がいることだ。ゲルフォンド氏は、若い世代を中心に一人の画面を超える共有体験を求める流れが強まっていると述べた。

韓国で『オデッセイ』IMAX観客170万人・特別上映館の売上高56%増…ラスベガスのK-POPはシーザーズとアレジアントで

韓国でも大画面への需要は数字に表れている。『オデッセイ』は8月5日の韓国公開から33日で観客1000万人を突破し、このうちIMAX観客は約170万4000人と韓国のIMAX上映作品で過去最多となった。韓国映画振興委員会(영화진흥위원회)の上半期集計では、韓国の特別上映館の売上高は457億ウォン(約53億円)と56.3%増え、IMAXの売上高は195億ウォン(約23億円)と89.7%増加した。

ラスベガスのK-POP公演は、今のところスフィアの外で行われている。BLACKPINK(블랙핑크)のLISA(리사)は11月13・14・27・28日、シーザーズ・パレス(Caesars Palace)のコロシアムでラスベガス初のK-POPレジデンシーを開く。BTS(방탄소년단)は5月にアレジアント・スタジアム(Allegiant Stadium)で3公演を行った。スフィアがこれまでに発表したレジデンシーに韓国のアーティストはいない。

『オズの魔法使い・アット・スフィア』の公式サイト画面。資料=スフィア

スフィアの第3四半期決算は、韓国の放送局が放送の外で収益を生む道筋を三つ示している。

一つ目は、保有する映像IPを会場専用の没入型作品に作り直す道だ。『オズの魔法使い』は87年前の映画1本で、1年余りのうちに400万枚のチケットを売った。韓国の放送局が積み上げてきたドラマ、バラエティー、音楽番組のライブラリーも同じ方法で再加工でき、グーグルと協力した生成AIによる画面拡張はその制作手法を示している。

二つ目はK-POPのレジデンシーだ。LISAのシーザーズ・パレス公演は、ラスベガスでK-POPの長期公演需要があることを示す最初の例となる。音楽番組や授賞式を制作してきた放送局は、公演企画と映像制作をまとめて提案できる。

三つ目は外壁広告とスポンサーシップだ。エクソスフィア広告は第3四半期のスフィア部門の増収を支えた項目の一つで、放送局の広告営業の力を屋外の大画面に広げられる分野でもある。

スフィアがアブダビ(Abu Dhabi)と米メリーランド州ナショナル・ハーバー(National Harbor)に新会場を建設する計画も変数だ。ドーラン会長は長期ビジョンとして「会場のグローバルネットワークと自社コンテンツの拡大」を掲げている。会場が増えれば、一度作った没入型作品を複数の都市で上映できる。

2027年は『ロッキー・ホラー』・ラッシュ・アブダビ…没入型会場の競争が本格化

スフィアの第4四半期には年末の繁忙期とバックストリート・ボーイズの公演が続く。2027年には3月に『ロッキー・ホラー・ピクチャー・ショー』、5月にラッシュ、さらにオプラ・ウィンフリーとジョン・メイヤーの公演が控える。IMAXは12月の『デューン:パート3(Dune: Part Three)』で年末の興行につなげる。

韓国でも没入型上映の需要は伸びている。上半期だけでIMAXの売上高は90%近く増え、CJ 4DPLEX(CJ 4D플렉스)のScreenX(スクリーンX)も上半期に北米の興行収入で55%成長した。

来年1月のCES 2027期間中にラスベガスを訪れる韓国の放送局・制作会社や機関にとって、スフィアは自社の没入型作品、レジデンシー、外壁広告が一つの会場でどう収益になるのか、そして同じ会社のTVチャンネルがなぜ2年連続でのれんを減損したのかを、あわせて確かめられる場所だ。