米動画配信サービス、SNSで行われていた作品探しを自社アプリへ

米主要動画配信サービス7社がモバイルアプリにTikTok型の縦型動画フィードを導入した。ルミネイトの調査では18~24歳の57%がショート動画で見る作品を見つけ、配信アプリ内の閲覧(55%)を上回った。各社はSNS上の発見を自社アプリに取り込み、フィードをマイクロドラマやクリエイター動画、広告の受け皿に広げている。課題はアプリを開く習慣づくりだ。

米動画配信サービス、SNSで行われていた作品探しを自社アプリへ

米18~24歳の57%がショート動画で作品を発見、配信アプリ内の閲覧(55%)を上回る…ネットフリックス・ディズニープラス・ピーコックなど7社がモバイル縦型フィード導入

一行要約  米主要動画配信サービス7社がモバイルアプリにTikTok型の縦型動画フィードを導入した。ルミネイトの調査では18~24歳の57%がショート動画で見る作品を見つけ、配信アプリ内の閲覧(55%)を上回った。各社はSNS上の発見を自社アプリに取り込み、フィードをマイクロドラマやクリエイター動画、広告の受け皿に広げている。課題はアプリを開く習慣づくりだ。

米国の主要動画配信サービスが、スマートフォンアプリに縦型動画フィードを相次いで導入した。ディズニープラス(Disney+)が3月に「Verts(バーツ)」、ネットフリックス(Netflix)が4月に「Clips(クリップ)」を始めた。パラマウントプラス(Paramount+)、アマゾン・プライム・ビデオ(Amazon Prime Video)、HBOマックス(HBO Max)、ピーコック(Peacock)が8月までに続いた。2024年11月に「Scenes(シーンズ)」を出したトゥービー(Tubi)を加えると7社になる。

各社が掲げる理由は作品の発見だ。米エンターテインメントデータ会社ルミネイト(Luminate)が10月に出した報告書「Social Media & Entertainment Discovery」で、米国の18~24歳の視聴者の57%がショート動画で新しい映画やテレビ番組を見つけると答えた。配信サービス内でおすすめや人気一覧を眺めて見つけるという回答(55%)を2ポイント上回る。

二つの経路は仕組みが違う。配信アプリは編集チームとレコメンドが選んだタイルを横一列に並べ、利用者に選ばせる。SNSはアルゴリズムが選んだクリップを次々に流し、利用者は名場面や舞台裏インタビュー、クリエイターの解説を見て、元の作品を探しにアプリの外へ出る。各社の縦型フィードは、この二つ目の経路を自社アプリの中につくる仕組みだ。

ルミネイトは今回の刷新で重みがあるのは「縦型」より「モバイル」だとみる。SNSはデスクトップからスマホへの移行に合わせて画面を作り直したが、配信サービスのスマホアプリはテレビ画面の構成を小さな画面に移した形にとどまっていた、という指摘だ。フィードを開いた各社は、そこにマイクロドラマやクリエイター動画、広告を載せる段階に入った。ピーコックは10月13日、ブラボー(Bravo)の名場面で構成するパーソナライズドフィード「Your Bravoverse(ユア・ブラボーバース)」を公開し、ディズニーはTikTok(ティックトック)クリエイターの動画をVertsに載せる。

18~24歳の57%がショート動画で作品発見…65歳以上は16%

ルミネイトの「U.S. Entertainment 365」調査で、ショート動画を作品発見の経路に挙げた割合は年齢が上がるほど低い。18~24歳57%、25~34歳37%、35~44歳35%、45~54歳22%、55~64歳25%、65歳以上16%だ。配信アプリでの閲覧も18~24歳の55%から65歳以上の30%に下がる。

年長層はテレビと周囲の人から作品を知る。テレビCM・予告編を挙げた割合は55~64歳と65歳以上でともに57%、65歳以上の口コミは58%で全年代・全項目の中で最も高い。18~24歳のテレビCM・予告編は33%で、五つの経路のうち最も低い。若年層はテレビ広告が届かない場所で作品を選んでおり、その場所がSNSのフィードだ。

年代別の映画・テレビ番組の発見経路。配信アプリ内の閲覧は3回答の平均。出所=ルミネイト

18~24歳では五つの経路のうち四つが50%を超える。ショート動画57%、配信アプリ55%、口コミ53%、従来型SNS52%だ。複数の経路を併用する世代であり、配信各社が縦型フィードで狙うのはそのうちショート動画で起きている発見だ。

米18~24歳が見る作品を見つける経路。出所=ルミネイト

クリップが実際の視聴につながるという調査もある。ユーガブ(YouGov)の英国での2026年調査では、SNSでテレビや映画のクリップに触れた視聴者の77%が本編を見たと答えた。

トゥービーが2024年に先行…2026年3~8月に6社が続く

最初に縦型フィードを始めたのはフォックス(Fox)傘下の無料広告型サービス、トゥービーで、2024年11月に「Scenes」を出した。有料サービスは2026年春に集中した。ディズニープラスが3月にVertsを始め、ネットフリックスは4月30日に米国・カナダ・英国・インドなど9カ国でモバイルアプリを刷新し、「New & Hot」タブをなくして検索とClipsを下部タブに置いた。

パラマウントプラスは4月、スポーツのハイライトやCBSニュース(CBS News)、UFCのクリップ、予告編を集めたフィードを加えた。プライム・ビデオは5月にNBAハイライトと映画・シリーズのクリップで「Clips」を、HBOマックスは7月に予告編・クリップ・特典映像で「HBO Max Shorts」を始めた。ピーコックは8月にライブラリーのクリップで縦型フィードを出した。

サービス フィード名 開始 内容
ピーコック 縦型フィード 2026年8月 ライブラリーのクリップ。オリジナルの脚本型・非脚本型マイクロドラマを含む「Your Bravoverse」
HBOマックス HBO Max Shorts 2026年7月 ライブラリーの予告編・クリップ・特典映像
プライム・ビデオ Clips 2026年5月 NBAハイライト、映画・番組のクリップ
ネットフリックス Clips 2026年4月 シリーズ・映画・特番のクリップ。ポッドキャスト、ライブ、ジャンル別コレクションに拡大予定
パラマウントプラス (名称なし) 2026年4月 スポーツハイライト、CBSニュース、UFC、予告編。クリエイター動画・マイクロドラマ導入の可能性
ディズニープラス Verts 2026年3月 ライブラリーの名場面。ファンダム型クリエイター動画導入の可能性
トゥービー Scenes 2024年11月 映画・番組のクリップ

米動画配信サービスのモバイル縦型フィード。出所=ルミネイト・インテリジェンス(2026年9月)

縦型フィードの導入時期。7社のうち6社が2026年3~8月に集中した。出所=ルミネイト

ネットフリックスはフィードの目的を発見に絞って説明してきた。イーマーケター(eMarketer)によると、同社はClipsを縦型動画プラットフォームと競う商品ではなく探索の手段だとしている。ただルミネイトの集計では、ネットフリックスはポッドキャストやライブ番組、ジャンル別コレクションを加える計画で、パラマウントプラスとディズニープラスもクリエイター動画やマイクロドラマの導入に含みを残す。

ユーチューブ、米テレビ視聴の15.8%…ネットフリックスの2倍

競争はスマホにとどまらない。ニールセン(Nielsen)が10月22日に発表した8月の「The Gauge」で、ユーチューブ(YouTube)は米国のテレビ画面の視聴時間の15.8%を占め、過去最高を更新した。ワールドカップの終了と新学期が重なった8月はテレビ全体の利用が4.4%、ストリーミングが3.2%減ったが、ユーチューブの視聴は6%増えた。2位のネットフリックスは7.7%だった。

米国のテレビ画面の視聴時間シェア(2026年8月)。ディズニーとパラマウントは各社の配信事業の合計。出所=ニールセン

ユーチューブは昨年、米国でテレビがスマホを抜いてユーチューブ視聴の主要機器になったと明らかにした。インスタグラム(Instagram)は2025年12月にAmazon Fire TV向けテレビアプリを出し、2026年2月にGoogle TVへ広げた。TikTokは2025年にテレビアプリを終了したが、ルミネイトはTikTokがCTVアプリを開発中との報道にも触れている。

テレビを見ながらスマホでSNSを開く「セカンドスクリーン」視聴も一般的だ。SNSは利用者投稿かプレミアム作品かを問わず、動画に使う時間そのものを配信サービスと奪い合う。配信各社がテレビアプリより先にスマホアプリを作り直す理由がここにある。

ピーコックはブラボーの名場面でフィード…ディズニーはTikTokクリエイターの動画を受け入れ

フィードに載る中身は、既存作品の縦型クリップからモバイル専用コンテンツに広がっている。ピーコックは6月22日、縦型フィードとブラボーのオリジナル非脚本型マイクロドラマ(microdrama)の計画を発表した。「Campus Confidential: Miami」や「Salon Confessionals」など1話1~2分程度の縦型ドラマだ。ハリウッド・リポーター(The Hollywood Reporter)は、ピーコックがマイクロドラマアプリのリールショート(ReelShort)からも一部作品を調達し始めたと伝えた。

10月13日に公開されたYour Bravoverseはピーコックのモバイルホーム画面に置かれたフィードで、利用者の反応に合わせてブラボーのリアリティ番組の場面をリアルタイムで選び、司会者アンディ・コーエン(Andy Cohen)のAIアバターが案内する。NBCユニバーサル(NBCUniversal)はAI技術と自社の編集チームを組み合わせたと説明し、広告主にはブラボーのファン層とつながる新しい場になるとしている。リビングのテレビ機器にも広げる計画だ。

ディズニーは外部のクリエイターを取り込んだ。ディズニーとTikTokは8月5日、クリエイターがピクサー(Pixar)、マーベル(Marvel)、スター・ウォーズ(Star Wars)、FXなど数百本の映画・シリーズの素材で動画を作れる提携を発表した。参加に同意したクリエイターの動画はTikTokとディズニープラスのVertsの両方に載り、Vertsに載せる動画はディズニーが選ぶ。米国での試験運用の後、他の市場に広げる。ディズニーの最高マーケティング・ブランド責任者アサド・アヤズ(Asad Ayaz)氏はCBSニュースが伝えた発表文で「クリエイターにはより大きな舞台を、視聴者にはディズニープラスで毎日見つけるものを増やす」と述べた。ディズニーは3月、オープンAI(OpenAI)が動画生成サービス「Sora」を終了したことで、Soraにキャラクターを提供する契約も終えている。

マイクロドラマ市場も伸びている。デロイト(Deloitte)は世界のショートドラマアプリのアプリ内売上高が2025年の38億ドル(約6060億円)から2026年に78億ドル(約1兆2440億円)に増えると予測する。ルミネイトはディズニープラスとパラマウントプラスもオリジナルのマイクロドラマを出すとみている。

ネットフリックスのClips、7月に日本と韓国へ…韓国TVINGは2024年から「ショーツ」タブ

日本と韓国の利用者も同じ画面を使い始めた。ネットフリックスは6月10日のアジア太平洋プロダクトショーケースで、Clipsを含む新しいモバイル体験を7月に日本と韓国で提供すると発表した。視聴履歴と反応をもとに、シリーズ・映画・ライブの全カタログから個人に合わせたクリップを出し、年内に気分やジャンル別のテーマコレクションを加える。

韓国の事業者ではティービング(TVING)が先行した。2024年12月5日にモバイルアプリに「ショーツ」タブを設け、tvN・Mnetのドラマやバラエティ、プロ野球KBOリーグのハイライトを1分前後の縦型動画で流す。視聴中に「本編を見る」ボタンを押すと作品ページに移る。今年6月22日からは、お笑い芸人が12週間で192本のショート動画を競う「コメディ・ショートリーグ」を実施した。

韓国のショート動画視聴時間は長い。CJメゾメディア(CJ MezzoMedia)の「2026ターゲットリポート」によると、1日平均視聴時間は10代62分、20代49分、30代41分、40代34分、50代38分で、全年代で30分を超えた。米国の調査は発見経路、韓国の調査は利用時間を尋ねたもので、数値は直接比較できない。

韓国の年代別ショート動画1日平均視聴時間。出所=CJメゾメディア

韓国MBCのショートドラマは外部アプリで公開…放送局のクリップとアーカイブの使い道

放送局も縦型コンテンツを作り始めた。韓国の地上波MBCは6月30日、ショートドラマ「良い妻はもう終わり(原題:착한 아내는 끝났다)」をグローバルのショートドラマアプリ、ドラマボックス(DramaBox)で公開した。2025年9月の作品に続く2本目のショートドラマだ。MBCは下半期の公開を目標に1話10~30分のミッドフォームドラマ2本以上も準備している。カカオベンチャーズは2024年の韓国ショートドラマ市場を約6500億ウォン(約776億円)と推計した。

米国の事例では、フィードの主導権はアプリを持つサービスにある。ピーコックは自社のブラボー・アーカイブと自ら制作したマイクロドラマでフィードを埋め、ディズニーはIP素材をクリエイターに開放しつつ、その成果物をVertsに戻す。どちらの場合も、クリップが生む発見と視聴データ、広告枠はフィードの運営者に蓄積される。MBCのショートドラマはドラマボックスという外部アプリで消費され、韓国の放送局のクリップの多くもユーチューブのチャンネルで流通している。

ネットフリックスやTVINGのフィードが放送局のドラマやバラエティの場面を縦型クリップにすれば、番組が生む発見のトラフィックは配信アプリの中にたまる。放送局が作品を供給する際、縦型クリップの制作権と、クリップ視聴から本編再生への転換データの共有を契約条件に入れるかどうかが検討課題になる。日本の放送局にも同じ問いが当てはまる。数十年分のバラエティ・ドラマのアーカイブを持つ放送局には、自社アプリでピーコック型のフィードを試す素材がある。ディズニーがTikTokクリエイターに素材の使用を公式に認めた方式は、無断で切り抜かれてきた放送映像の二次創作をライセンスの枠内に取り込む選択肢になる。

広告商品はこれから…残る課題はアプリを開く習慣

縦型フィードの収益化は初期段階にある。イーマーケターは、各社がフィード内の広告枠をまだ確定させていないと指摘する。ピーコックがYour Bravoverseを広告主向けの場として紹介したのが最初の動きだ。英調査会社MIDiAリサーチ(MIDiA Research)は、縦型フィードがショート動画広告やブランデッド・エンターテインメント、クリエイター主導のフォーマットを載せる基盤になりうるとみる。

ルミネイトが挙げるより大きな課題は、利用者を配信サービスのスマホアプリに呼び込み、定期的に開く習慣をつくることだ。18~24歳が作品を見つける場所はTikTok、インスタグラム、YouTubeショートのフィードであり、配信アプリのフィードは利用者がアプリを開いて初めて機能する。ルミネイトは、このフィードを、消費者がSNSですでに行っている発見行動を配信サービス自身が担い、利用者を長編作品とIPに導くための手段だと整理した。

フィードはテレビにも向かう。ディズニーはVertsをコネクテッドTVに広げる可能性を示し、NBCユニバーサルはYour Bravoverseをリビングの機器に広げる。インスタグラムがリールをテレビアプリに載せたのと同じ時期だ。ニールセンは9月分からThe Gaugeの算出方法を一度調整し、ユーチューブと配信各社のテレビシェア比較も新しい基準で行われる。縦型フィードの成果は、フィード内のクリップ視聴がどれだけ本編再生につながったかが公表された時に測ることができる。