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要約 NAB Show New York 2026の「AI in the Newsroom」セッションで、米CNNとE.W.スクリップスはニュースルームでのAI導入の出発点として、実際の業務課題と検証手順を挙げた。CNNはAIの出力を文書の原文や録音の原本まですぐに確認できる人によるチェックを義務付けている。今年432職を削減し「AIを基盤とする放送ジャーナリズム企業」への転換を進めるスクリップスは、業務フローと行動の変化を管理しなければ導入は失敗すると述べた。韓国では記者の58.1%が生成AIを使っている。

米CNNと地方放送グループのE.W.スクリップス(E.W. Scripps)は22日(現地時間)、ニューヨークのジャビッツ・センター(Javits Center)で開かれたNAB Show New York 2026の「AI in the Newsroom」セッションで、ニュースルームでのAI活用の方法を公開した。CNNのライアン・ストルイク(Ryan Struyk)AIイノベーション担当ディレクターと、スクリップスのクリスティーナ・ハートマン(Christina Hartman)新技術運用担当副社長が登壇し、CNNニュースソース(CNN Newsource)のエンジェル・バーデット(Angel Burdette)グループ副社長兼総括が司会を務めた。
両社が共通して挙げた導入の基準は、実際の業務課題と検証手順だ。ストルイク氏は、まず記者が実際に抱える課題を見つけ、AIの出力は文書の原文や録音の原本まで人がすぐ確認できるように設計すると説明した。ハートマン氏は、ソフトウエアを購入することを転換とみなす考え方を戒め、業務フローと行動の変化を管理しなければ導入は失敗すると述べた。
両社はいずれも組織再編のさなかにある。スクリップスは年初から432の職と126の欠員ポストを削減した。全従業員の12%にあたる。アダム・シムソン(Adam Symson)最高経営責任者(CEO)は8月の第2四半期決算説明会で「AIを基盤とする放送ジャーナリズム企業」を目指すと表明したと、ザ・メディア・コパイロット(The Media Copilot)が報じた。CNNは、親会社ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)が10月6日に約1100億ドル(約17兆5000億円)でパラマウント・スカイダンス(Paramount Skydance)に買収されたことで、新会社スカイダンス(Skydance)の傘下に入った。
ただし両社とも、最終責任は人が負うという原則はそのまま維持している。スクリップスのAIガイドラインは最終成果物の責任は人にあると明記し、生成AIツールは社内のAIガバナンス委員会の承認を必要とする。CNNでは記者が実際に使ったAI活用事例を毎週ニュースレターにまとめ、1000人を超える社員に配信して導入を広げている。
原稿と撮影素材から最初の編集版… 30分ニュースの複数リポートを同時処理
ハートマン氏が最も効果が大きかったツールとして挙げたのは、AIによる映像編集支援だ。ニュースでは生成要素を加えないツールが必要で、その条件を付けると選択肢は大きく狭まるという。スクリップスが使うツールは、記者が書いた原稿と自ら撮影した素材を取り込んで最初の編集版(ファーストカット)を作り、ファイナルカットなど編集者が使う仕上げ用ソフトに渡す。仕上げは編集者が担う。
効果はニュースルーム単位で大きくなった。30分のニュース番組を構成する複数のリポート(パッケージ)を同時に処理できるからだ。ハートマン氏はこの機能が「私たちのニュースルームにとって本当のゲームチェンジャーだった」と述べ、記者が取材先をもう一人当たり、次のネタに早く取りかかる時間が生まれたと説明した。音声モードも勧めた。朝の身支度をしながらAIと話して一日の予定を立て、前夜に思いついたアイデアを同僚に説明できる形に整理しているという。

スクリップス、今年432職を削減… 「AIを基盤とする放送ジャーナリズム企業」へ
ハートマン氏はセッションで、スクリップスが「かなり公になった転換」の最中にあると触れた。同社は8月4日に268人の削減を発表し、地方局12局をAIと自動化に支えられた24時間の地域ニュース配信に切り替え、この方式を全地方局に広げる方針を示した。米地域メディアのMySAが最初に報じた。第2四半期の売上高は前年比9%減の4億9040万ドル(約782億円)。同社は再編で年間1億ドル(約160億円)を削減し、2028年までにEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を1億2500万〜1億5000万ドル(約199億〜239億円)増やす計画を掲げる。
スクリップスの人員削減の規模とシムソン氏の発言をまとめて伝えたザ・メディア・コパイロットは、AIとメディアの接点を専門に扱う米国の独立系メディアだ。テック記者出身のピート・パチャル(Pete Pachal)氏が創業した。パチャル氏はマッシャブル(Mashable)とコインデスク(CoinDesk)で編集幹部を務め、コインデスクではコンテンツ担当チーフ・オブ・スタッフとして社内のAI委員会を率い、生成AIの利用指針を書いた。ザ・メディア・コパイロットはニュースレターと週刊のポッドキャストを発行し、記者や広報担当者向けのAI活用講座も運営している。2025年12月にはニュース報道を広げる体制に刷新した。パチャル氏は経済誌ファスト・カンパニー(Fast Company)に週刊コラムも執筆している。
スクリップスが現在AIを使う代表的な方法は、傘下のサンディエゴの放送局KGTVが視聴者向けに公開した説明資料で確認できる。完成した放送原稿をウェブ記事の下書きに変換し、市議会の議案のような長い行政文書から関連箇所とページ番号を示し、原稿を社の倫理指針と照合して正確性や公平性の問題を事前に洗い出す。公開前には編集者とニュース責任者が確認し、該当するウェブ記事にはAI使用の旨を表示する。
スクリップスは昨年12月、米放送大手シンクレア(Sinclair)による買収提案を拒否し、独自の計画を選んだ。今回の人員削減と24時間配信への移行は、その独自計画の実行段階にあたる。

CNNの週刊AIニュースレター、1000人超が購読… 記者の事例で導入広げる
ストルイク氏はCNN政治チームのデータ記者として入社し、討論番組「ステート・オブ・ザ・ユニオン」のプロデューサーを経てAIイノベーション部門を率いている。同氏はAIプロジェクトの成否を分けた要因として二つを挙げた。一つは人々が本当に解決したい課題を解くことだ。他人の仕事に「落下傘のように降りて」すべて分かったつもりにはならないという。「自分が記者ならこんな機能があればいいのに」と考えて何カ月もかけて作るうちに、現場のニーズは変わってしまうと指摘した。
もう一つは実験の文化だ。生成AIは誤った答えを出し、報道の仕事ではそれが大きな問題になる。記者が使いたくないと言えば、その気持ちは理解できるという。代わりに小さな成功を共有する。毎週1000人を超える社員に送るニュースレターに、記者が実際に使っている事例を載せる。社内のコーディングツールの公開もあれば、出勤すると大きな速報が入っていて、たまったメールとスラック(Slack)のメッセージをAIで要約して読んだという事例もある。配信後には「自分もやってみたい」という返信が届く。ストルイク氏はこれをニュースルーム内の一種のFOMO(取り残されることへの不安)の文化と呼んだ。
原文まで「ゼロクリック」… CNN、AI出力の人によるチェックを義務化
会場から、大規模な調査報道でAIを使う際にAIが文書の特定ページを示すのかという質問が出た。ストルイク氏はそうだと答え、「CNNにはAIが生成した出力に対する人によるチェックの義務がある」と述べた。膨大な文書をAIで洗い出す取材では、人が確認する手間をできるだけ減らすことが要だという。確認の際には原文の該当文にクリックなし、多くても1回で届く必要がある。音声や映像はAIの書き起こしを原音とすぐ照合できなければならない。同氏は「AIの書き起こしは信用できない」とし、記者がポッドキャストや映像の該当箇所を自ら聞いて確かめると話した。
KGTVが行政文書の検索結果にページ番号を付けて返す方式も同じ設計だ。要約だけが返ってくると確認者は原文を探し直す必要があり、ページ番号と原文の位置が一緒に示されれば確認にかかる時間は短くなる。

「ソフトを買って転換と呼ばない」… 業務と行動の変化が導入の成否
AIツールの導入を成功させるためにニュースルームは何をすべきかとバーデット氏が尋ねると、ハートマン氏はツール中心ではなく利用者中心のアプローチを挙げた。経営層が「ソフトウエアを買って、それを転換と呼ぶ」ことがないようにするのが自分の仕事の大きな部分だという。達成したい成果とそれを実行する人をまず理解し、そのうえでAIを含む技術を選ぶという順序だ。技術を購入し、開発し、展開した時点で業務フローと行動の変化も引き受けることになり、「そこに注意を払わなければ失敗は確実だ」と述べた。バーデット氏は導入の文化と包摂の文化を併せて築く必要があると付け加えた。
判断力と反復… 「今使えるツールは、これから出るものの中で最も出来が悪い」
AIによって価値が高まるニュースルームの能力を問われ、ハートマン氏は「AI以後の時代、ニュースルームでも、どの産業でも、人間の第一の能力は判断力だ」と答えた。AIに質問して答えを読みもせずに貼り付ける同僚がいると指摘し、AIの出力をほかの情報源と同じように扱い、自分の持つ文脈で重要なものを選び出すことが判断力だと説明した。
ストルイク氏は反復(イテレーション)を加えた。8〜10ページのメモを受け取っても、書いた本人が中身を理解していないようなら、そのAI出力を代わりに直すつもりはないという。出力を見直し、この部分は残してあの部分は捨て、文体を合わせるよう指示し、半年前に自分で書いたメモを参考資料として与えるといった、AIとのやり取りを身につけることが必要な技能だと述べた。
映像編集者だという来場者は、自分の仕事を直接減らすツールが次々に出てくる中で職業の価値をどう守ればよいかと質問した。ハートマン氏は「今使えるツールは、これから出てくるものの中で最も出来が悪い」と述べ、ツールは良くなり続けるが、仕上げや磨き上げ、それが最善のカットだったかを確かめる役割は残ると答えた。そのうえで技能の幅を広げる必要があるとし、報道業界に残るなら、まだ知られていない情報を掘り起こすというジャーナリズムの核心に向けて広げるよう助言した。
決算説明会の「taste」言及、2024年1〜3月期2回→2026年4〜6月期22回… 「モデルは汎用化、テイストは違う」
ハートマン氏が判断力と呼んだ能力を、米国のテック・メディア業界は「テイスト(taste、好み・審美眼)」と「信頼(trust)」という言葉で語り始めている。米ニュースメディアのアクシオス(Axios)は「Taste + Trust Is the New Moat(テイストと信頼が新たな堀)」と題した資料で、ウェブの中心が検索(索引)からフィード(流通)を経てAI(パーソナライズ)へ移ってきたと整理した。AIによるパーソナライズの段階では、友人関係のつながり(ソーシャルグラフ)のデータより個人の好みのデータが重要になるという。アクシオスは「AIモデルは汎用化するが、テイストはそうではない」とし、テイストを「蓄積された文脈(accumulated context)」と定義した。
この言葉は決算説明会でも増えている。アクシオスがファクトセット(FactSet)のデータで集計したところ、ピンタレスト(Pinterest)・スポティファイ(Spotify)・エッツィー(Etsy)の3社の決算説明会で「taste」が登場した回数は、2024年1〜3月期の2回から2026年4〜6月期には22回に増えた。グラフ上では、増加は2024年後半にピンタレストが四半期ごとに11回ずつ使ったことから始まり、2026年4〜6月期にはスポティファイの言及が11回でピンタレストに並んだ。

テイストを蓄積された文脈とするアクシオスの定義は、ハートマン氏が判断力を「AIの出力を自分の文脈で選別すること」と説明した内容と重なる。ニュースルームにおける文脈とは取材先との関係と検証の記録であり、信頼はCNNのように読者が目にする前に人が原文まで確かめる手順の中で積み上がる。アクシオスの論理に従えば、モデルが同質化するほど報道機関の差はこの二つで生まれる。数十年分の取材記録と映像アーカイブを持つ韓国の放送局や新聞社がAI導入でまず守るべき資産も、この文脈だ。
生成AI・機械学習・自動化を区別… AI報道でも扇情的な見出しを戒め
機械学習を長年学んできたという来場者は、記者がAIを技術的に誤って報じ、市民の不安をあおっていると指摘した。ハートマン氏は、AIをめぐる大きな不安は技術への誤解というより、データセンターの拡大に象徴される制御を失う感覚から来ていると述べた。そのうえで報道は正確でなければならず、扇情的な見出しは避けるべきだと語った。ストルイク氏は、人々が生成AIと機械学習、単純な自動化を混同していると指摘した。「AIでこれができるか」と聞かれると、それが三つのうちどれかをまず考えるといい、この区別はCNNの社内教育の一部になっている。
韓国の記者58.1%が生成AIを活用… ソウル経済「NOVA」は記者300人余りが利用
韓国言論振興財団(한국언론진흥재단)の「2025 韓国の言論人」調査では、業務に生成AIを使うと答えた記者は58.1%だった。20代では71.6%、入社5年未満では72.1%に上る。同じ調査で回答者の約40%が、AIは記者の雇用の安定を脅かしうると答えた。
韓国記者協会の機関紙・記者協会報(기자협회보)7月9日付によると、ソウル経済新聞(서울경제신문)のAI「NOVA」はネタ探しから記事作成、校閲、見出し・グラフィック生成までを支援し、記者300人余りが使っている。6月には外部向けに有料で公開した。聯合ニュース(연합뉴스)のAIコンテンツ部は3月にチャート型インフォグラフィック生成サービスを公開し、人事・訃報記事の作成支援ツールを運用するほか、記者会見などをリアルタイムで書き起こす音声認識(STT)技術を開発している。TV朝鮮(TV조선)はAIリポーター「アイオン」、YTNはAIアンカーとバーチャル記者を使い、MBC子会社のドスト11(도스트11)は自社のAIソリューションを外部に販売する。
AIの書き起こしを原音と照合させるCNNの手順は、聯合ニュースが開発中のリアルタイム書き起こしと同じ工程にかかわる。書き起こしツールを導入する段階で、原本の確認を誰が何回のクリックで行うかまで決めておくのがCNNのやり方だ。
地方民放の週末AIニュース… G1、山火事の短信処理後に「対応マニュアル」
CJB・G1・JIBS・KNNなど韓国の地方民放は、約2年前に週末のAIニュースを導入した。記者協会報によると、2025年4月の江原道麟蹄(インジェ)郡の山火事の際、G1の当直記者がAIニュースの制作にかかりきりになり、山火事は短信の扱いにとどまった。地域住民の安全と公共性を損ねたとの批判が社内から上がり、労使はその後「AIニュース対応マニュアル」を作成し、休日の待機勤務と制作部門間の協力体制を見直した。
ハートマン氏が失敗の要因として挙げた業務フローの管理は、韓国の地方局では事故が起きた後に整えられた。スクリップスは地方局のニュースをAIと自動化で24時間配信に切り替える計画を発表する際、生成AIツールごとの承認手続きとウェブ記事での表示原則も併せて公開している。CNNニュースソースが1000以上の地域ニュースパートナーに映像と原稿を供給する構造は、韓国の地方放送局と通信社の関係に近く、供給段階の検証基準は地方局のAI活用の範囲にも影響する。
スクリップスの転換は2028年まで… CNNはスカイダンス傘下で1年目
スクリップスは転換の効果を2028年までと見込む。人員削減と24時間配信が全地方局に広がる中で、今回のセッションで強調された人によるチェックの工程に人員が配置され続けるかが、次に確認すべき点になる。CNNはスカイダンス傘下で1年目を迎える。買収をめぐる合意の過程で、パラマウントはCNNとCBSニュースの編集の独立を支える編集委員会を設けることにした。ワーナー・ブラザース・ディスカバリーはCNNの2026年の売上高を18億ドル(約2871億円)、利益を6億ドル(約957億円)と見込んでいた。

今年のNAB Show New Yorkには72カ国から参加者が集まり、57%が初参加だった。出展・協賛企業は約250社、セッションは101、登壇者は156人。来年のNAB Show New Yorkは2027年9月29〜30日にジャビッツ・センターで開かれ、米映画テレビ技術者協会(SMPTE)の技術会議SMPTEサミット(9月28〜30日)と同じ会場で併催される。ラスベガスのNAB Showは2027年4月3〜7日に開催される。
韓国の報道機関では生成AIの利用率が6割に近づき、生成AIによる成果物の表示義務を盛り込んだ人工知能基本法(인공지능기본법)も今年1月に施行された。CNNとスクリップスが示した原文に直接たどり着くチェックの設計、導入前の業務フローの点検、記者の事例の共有は、各社が独自のAIガイドラインにそのまま取り入れられる項目だ。